空京

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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

リアクション

 さて――――
 
 オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は創世学園都市の街並みを駆けていた。
 嫌な胸騒ぎを感じ、鳥人型ギフトのタマゴの元へと急いでいたのだ。
 ブライドオブハルパーをケツにぶち込まれて光のタマゴとなったギフトのタマゴ。
 その後、カレーまみれにされたり、ドージェのバットでふっ飛ばされたりしたギフトのタマゴ。 
 前代未聞の状況にギフト達が戸惑っているという。
 その話を聞きつけ、多くの者が彼らに知恵を貸すべく終結し始めているという。
 そんな状況の中で、“あの男”が何もやらかさないワケがない――
 
(無事であってくれ、ギフトのタマゴよ!)
 
 【魔法少女浜名うなぎ】の名を冠するオットーは、パラミタジャンボジェットハナアルキにまたがり、急いでいた。
 
 創世学園都市を抜け、創世学園の敷地へ入る。
 様々な施設の奥に、ギフト達が集う、星立競技場はあった。
 そこへ飛び込んだオットーが見たのは、ダイヤモンドの 騎士(かつおぶし君)が鍋で煮込まれている様だった
 
 
ギフトのタマゴ

「まったく、ダイヤモンドの騎士くんてば、俺様が少し目を離したらあらゆる作戦行動から外れてる空気っぷりってどうよ?」
「いや……私は、学園とブライドオブシリーズの護りとして……」
「ダーメだよ、んな空気っぷりじゃあ。ここは殻を破ってもうひと化けしないとダメだダメだ!」 ダイヤモンドの騎士(かつおぶしくん)が収まった鍋の下に焚いた火をパタパタと団扇で仰ぎながら、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が言う。
「ともかく、この出汁でタマゴのカレーを洗い流してから、タマゴの殻を固いのでつついて『愛の目覚め』を――」
「成敗ぃいいいいい!!!」
 オットーは迷いなく光一郎をシバき倒した。
「ななな何をやっておるかぁ!
 光一郎! 貴様は、“帝国の盾”を鍋で煮るだけでは飽き足らず、“殻を破る”だの“愛の目覚め”だの“かつおぶしくんのかたいの”だの“激しくつきあう”だの……猥褻な!」
「最後の二つは言ってないなぁ」
 シバき倒れて突っ伏していた光一郎が、競技場のフィールドから顔面を引きはがしつつ、へらへらと笑う。
「俺様は、ただ、ダイヤモンドの騎士くんをダシに、じゃないや、騎士くんの出汁を使ってタマゴを清めてから騎士くんに槍で殻割ってもらおうって。
 それで――出てきた中身にダイヤモンドの騎士くんが刷り込みでパパと呼ばれてつきまとわれて、ラクシュミ様に不審がられたら、なおよし」
「私をどうしたいのでしょうか……?」
「うろたえるダイヤモンドの騎士を横に、合わせ出汁のカレーうどんを堪能する、って寸法だ」
「……ハッ!? 天井知らずの愚かしさに意識が薄れてしまっていた。
 それより、ギフトのタマゴはいずこへ……」
 で、視線を巡らせたオットーは、籾殻の上でゴロンゴロン転がされているタマゴを目撃することになる。
 転がしていたのは、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)とギフトたちだった。
 パートナーの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は相変わらず百合園でお留守番らしい。
「カレー付けになったタマゴは、きちんと手当てをしないと孵化できないワヨ!」
 キャンディスが爽やかな汗(?)を掻き散らしながら、タマゴを転がしていく。
「ソモソモ卵は、定期的にひっくり返して一方向だけが下にならないようにしないと駄目なのヨ!」
 まるで競技のような様相を呈しているのは、キャンディスが――
『飽きずにひっくり返し続けるには、エンターテイメント性が必要』
 と言い張ったからだったという。
 「豪華なろくりんくん」着ぐるみをバッチリ着ながらというところが尚あざとい。
 転がされたカレーっぽい色合いのタマゴは籾殻だらけとなり、いっそピータンのようだ。
 転がされる度に中身らしきものが、殻の中でゴチンゴチンいっているのが聞こえるが、概ね、その場の雰囲気は良かった。
 ギフトたちも卵転がしに青春を燃やしている。
 
 
 だから何だ。
 
 
 と、オットーは思った。
 

「しかし、アレなのだ」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、競技場の端っこで体育座りした格好で、転がされるタマゴを見ていた。
「ああ、そうだな」
 隣のララ・サーズデイ(らら・さーずでい)が頷く。
「まさか、あんなアッサリと……」
 彼女らの視線の先、転がるタマゴの殻には誰かが蹴り抜いたような穴が開いていた。
「中身が無事なのかどうかは、いまいち考えたくないのだ」
「まあ、そういった心配は、非常に今更ではあるが」
 どうしてそうなったか。
 彼女たちの回想に入る前に――

 唐突に現れた六尺 花火(ろくしゃく・はなび)の投げた、お菓子な凶器ビッグバンスイーツがギフトのタマゴに着弾した。
 激しい爆風と共に、上空へ放りあげられるタマゴ。
「カレーには刺激が必要だよね! だから刺激をとっぴんぐ!!」
 いぇい、とピースを掲げた花火の後頭部へ、
「やめんかーーーーー!!」
 玉屋 市朗兵衛(たまや・いちろうべい)のドロップキックが突き刺さる。
「うきゃああああああ!」
 地面に顔面を擦りつけながら、きりもみ回転でフィールドを抉っていった花火から、シリンダーボムだの爆砕槌などが零れ落ち――
「ったく、拘束していた簀巻きがもぬけの空で、嫌な予感がした……が、って」
 市朗兵衛と、地面に落下してきていたギフトのタマゴを、連鎖爆発が吹き飛ばした。


 なので、再びタマゴが地面へ落下してくるまでの間、リリはギフトのタマゴに穴が空いた経緯を思い返すことにした。
 



 北ニルヴァーナ――巨大空洞。
 リリとララは、ギフトのタマゴを持ってウゲンの元へと急いでいた。
 目的は、王都突入の決め手を得るべく、インテグラル・ルークへ一撃をお見舞いすることだった。
「――ドージェのパワーがタマゴに注ぎ込まれたのだ。
 ならば、次はウゲンのパワーを注入すれば『どっくん』が『どっきん』とか『どっこん』とかになるに違いないのだよ!」
「確かに、有り得る話ではあるね」
 そして、リリとララは、王都でウゲンとの接触に成功する。
 彼は一人だった。
 王都では、ルークらとメルヴィアの隊がこう着状態となっている様子だった。
「へぇ……面白いものを持ってるね。そのタマゴは、面白いよ。とても不思議だ」
 リリらと遭遇したウゲンには、いつものようにお茶らけた雰囲気が無かった。
 何かが違う感じで、リリはウゲンの雰囲気に波の無い湖面のようなものを感じていた。
 ともあれ、目的を果たすため、リリはウゲンへとタマゴを差し出した。
「これを蹴るのだ」
 言って、リリは指先をルークの方へと向けた。
 ララが続ける。
「ドージェの一撃によってパワーを得たギフトは、君の一撃によって更なる力を得るだろう。
 そして、ルークへと飛ばされる過程で――あわよくば、ギフトを超えた超ギフトとして産まれ、ルークへと突撃し、多大なダメージを負わせることになる」
「そうか、これは兄貴の力の欠片か……どおりで」
 もしかしたら、それがウゲンと遭遇できる決め手となったのかもしれなかった。
 ウゲンがゆっくりと呼気を落として。
「まあ、いいよ。……本当は、今、あんまり無駄な事はしたくないんだけど、楽しそうだし」
「無駄なこと……ニル子を連れ回したり、夏來香菜をルークに同化させようとしたりは無駄なことではないというのか?」
 それは、その時、リリに浮かんだ純粋な疑問だった。
 ウゲンは薄く笑っただけで、疑問に応えることはなく、ギフトのタマゴをリリから取って地面に置いた。
「支えは?」
「ちょっと待て」
 リリがタマゴを立てて、まるで、ラグビーのそれのように準備を整えた。
 ウゲンが彼方のルークへと狙いを定めて、片足を振り上げる。
 そして、彼の足はタマゴへと思いっきり叩き込まれたのだった。
 
 メキッゴキッ、という音が響き渡る。
 
「…………」
「…………」
「…………」

 ウゲンの足はタマゴの殻を突き破っていた。
 リリは自身の手の下に残ったタマゴを見つめたまま、ゆっくりと長い長い息を零し、言った。
 
「『どっくん』が『ぐったり』になったのだ」




 ということがあったタマゴは、爆発によって競技場の上空に舞い……
 そして、鍋に浸かっていたダイヤモンドの騎士の頭上へと落下した。
 
 激しい水音と激突音とを響かせて、タマゴはダイヤモンドの騎士ごと鍋の中に沈んだ。
 
 混沌とした騒がしさが去って静まり返った空気の中――
 キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が、てくてくと鍋へ歩みより、うんしょっとタマゴを鍋から取り出した。
 そして、彼女は、おもむろにエプロンドレスの内側にタマゴを、よいしょよいしょと差しこんでから、「おーっほっほっほ!」と高笑いした。
 これでもかと注目を集めた彼女は、ふっ、と万が持したといわんばかりに必勝確信の笑みを浮かべてから、言った。
 
「う、産まれますわ〜」

 渾身のギャグだったのだろう。
 その場にいた誰もが、『場の空気が凍りつき、致命的に割れる音』を聞いたという。
 と――ふいに、キャンティの様子が変わった。

「あ、あの、あのっ、タマゴが割れてきちゃったのですけど〜〜〜〜!?」
 どうやら、エプロンドレスの下でタマゴがとうとう全体的に割れ始めているらしい。
 おそらく、タマゴに空いた穴とヒビにダイヤモンドの騎士の先端がジャストヒットしていたのだろう。
 ちなみに、ゆで卵はボールに張った水の中で殻を剥くと綺麗に剥き易いというのは割とよく知られていることである。
 騒ぐキャンティのそばへ、すっと聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が優美な所作で近寄り。
「お嬢様、失礼致します」
 エプロンドレスの中へ手を差し込んだ。
 そして、その中の何かをむんずと掴むと、彼は瞬時にこの場で“最も相応しい”と思える者へと視線を向けた。
 レッドヘリングがエプロンドレスから取り出したものを、その人物へと放り投げる。
 
 タマゴから返った雛は、産まれて最初に目にしたものを親と思いこむ。
 いわゆる『インプリンティング』が、レッドヘリングの頭にはあった。
 タマゴから産まれたギフトに最も相応しいと彼が判断した親、それは――
 
「……ミー?」

 キャンディスだった。
 放り投げられたタマゴの中身は、まっすぐにキャンディスに飛んで行き、キャンディスの額に、ざくっ、と突き刺さった。



 こうして、超鳥人型ギフトは“ゆる族”専用ギフトとして爆誕したのだった。
 ただし、ぐったりしている。


 ■再現される宇宙

 北ニルヴァーナ。
 西の果てで発見された巨大なドーム……その瓦解跡。

 以前の探索では、内部に“地球側の宇宙”に関する研究資料らしきものが発見された。
 しかし、ディーン・ロングストリート(でぃーん・ろんぐすとりーと)らの調査中、ドームは自壊してしまったのだった。

 何故、ニルヴァーナの地にそのような施設があったのか。
 謎を残したまま全ては崩れ去ってしまったかに思えた。
 
 しかし、ディーンらは再び、この地を訪れていたのだった。
 諦めず、謎を解明する手掛かりを得るために。
 
 
 黒砂が吹雪のように降り舞う中。
 ディーンはドームの欠片を持ち上げ、目を細めた。ここんっと欠片を拳の裏で叩いて。
「さすがニルヴァーナ。
 変わった材質をしている……飲み屋のねーちゃんにプレゼントしたら、こう、どんなサービスを返して貰えるだろうか」
「隊長……」
 サミュエル・ウィザーズ(さみゅえる・うぃざーず)が呆れた目をサミュエルへ向けていた。
 サミュエルは、ふっと精悍に笑み。
「冗談だ」
「鼻の下、伸びてます」
「笑止。いいか? おい。この瓦礫の下には、俺達が見た、“宇宙”を再現していた機能だのなんだのが埋まってるかもしれねぇんだ。様々な謎と共にな。俺は、純粋に研究材料の回収のためにここへ来た! わかるな? うん、おねがい信じて……」
「……まあ、いいですけど。ひとまずは、地図作成をお休みして、ここの調査を続行というわけですね」
「そんなわけで、地中の中も調べちゃおー!!」
 ディーンの隊に参加していたエデッサ・ド・サヴォイア(えでっさ・どさぼいあ)は、胡散臭いディーンの様子にお構いなく元気だった。
「なんでもいいから、早く調査を始めようぜ!」
 エッツィオ・ドラクロア(えっつぃお・どらくろあ)がディーンの背をドンッと押して、けしかける。
「おぶっ、って、お前らノリノリだな。実際、何もねぇーかもしれないってのに」
 ディーンは欠片をしまいながら、3人の方を見やった。
 エッツィオが、にひひっと笑いを零し。
「何も出て来なくたっていいさ。そもそも、“この場所”自体が俺たちが見つけたお宝だ!!」
 天球儀マークが書き込まれた地図をディーンに見せながら言ってくる。
 そのマークはエデッサがデザインしたものだった。
「ま、いいか。それじゃあ、野郎ども、さっさと探索を開始するぞ!!」

 そして、ディーンらの探索の結果、
 この地からは、データの痕跡を残すメモリーが幾つか発見され、
 創世学園都市へと持ち帰られたのだった。


 発見されたデータは、コリマとジェイダスを中心に解析が進められ、
 ドームで再現されていた太陽系は、実際の太陽系とはわずかに誤差があることが判明することとなる。


■黒い砂

 パラミタの月。
 ニルヴァーナへ続く回廊の前に在る、大型映像装置には、おそらく“本物”だろうと考えられるファーストクイーンの姿が映し出されていた。

 この本物のファーストクイーンは既に、どこにも存在していない。
 今、ニルヴァーナに居るのは、彼女の死後に造り出されたコピーのような存在だ。

「これが、本当のファーストクイーンの姿と意思を記録する、現在、唯一の資料……」

 甲斐 英虎(かい・ひでとら)は、その映像を見つめながら独り呟いた。
 
「約1万2千年前。
 ニルヴァーナとパラミタは戦争状態だったていうけど……その理由って何だったんだろう」
 
 こうして、ニルヴァーナへ渡る者へ微笑みかける彼女の姿からは、パラミタへの拒絶は感じられない。
 むしろ、友好的で親愛の情さえ覗かせているように思える。
 一体、何が原因で戦争は起こったのか……英虎は考えていた。
 
 あるいは、ニルヴァーナでも、かつてのシャンバラ女王を悲しませたような出来事があったのかもしれない。
 彼女にはどうしようも無かった、何か哀しい理由が。
 
 英虎は、小さく息をついて瞼を落とした。
 
 そもそも、本物のファーストクイーンは何故、消滅しなければならなかったのだろうか。
 ゲルバッキー達の持つ卓越した技術は、その力を発揮できる設備さえあれば、例え死者だろうと蘇らせることが可能なようにも考えられる。
 ファーストクイーンはニルヴァーナの国家神だ。
 ニルヴァーナにとって最も重要な人物であり、ゲルバッキーは彼女を愛していた節もあるという。
 普通なら、最善の手が尽くされる筈だ。
 しかし、それにも関わらず、本物のファーストクイーンは滅んだ。
「……ファーストクイーンは、自ら選択したんだ」
 彼女がゲルバッキー達の元を離れ、去ったのには、きっと意味がある……そう思えた。
「何か……同意できない悲しみや痛みが、そこに――」
 と、近づいた足音に英虎は振り向いた。
 苗木ちゃんを連れた甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)がタブレット端末を胸に英虎の前へ立ち、タブレットを彼に見せた。
 
「シボラ崩壊前に、アクリト教授のチームが『黒い砂』について創世学園へ送っていた研究の途中経過と、『影人間』に関する情報をクロスさせた資料でございます」

 創世学園都市の大規模な健康診断によって、ニルヴァーナの非契約者の体内に見つかった“黒い砂”の存在。
 それと、北ニルヴァーナの各地で見られる奇妙な『影人間』。
 ユキノは、これらに関連があるのでは、と考えているようだった。

 アクリトの研究に関する途中報告がタブレットに映し出される。
 その内容は要約すると、概ね次のような内容だった。
 
『“黒い砂”については、現在までに次のことが分かった。
 
 ・黒い砂の成分は、かつて、黒い月から放たれ、大量のイレイザー・スポーンを送り込んで来た“黒い種子”の欠片に似ている。
 ・非契約者に対する主だった影響は、現在は確認されない。
 ・契約者に対しては、“パラミタ古代種族”に似た能力をもたらすことが確認されている。


 以下は、アクリト本人の雑感であり、裏付けのある情報ではない。
 
 イレイザー・スポーン、インテグラルについて、これまでに見せた特性から推測するに、これらは周囲の存在の『情報』を得、融合するという性質があると考えられる。
 なお、ここで言う『情報』は単純に知識としての情報では無く、物質や生命が持つあらゆる構造とエネルギー量、その方向性など、それ自身が存在するに足る全ての情報を総じて差す。
 言葉として妙かもしれないが、いわば『情報生命体』とでも言えるものではないだろうか。
 
 黒い砂自体にも似た性質があると考えられる。
 こちらは、「『情報』をもたらす」方ではあるが。
 
 そう考える要因の一つとして、ニルヴァーナの生物が、ある一定の意図を感じさせる奇妙な進化を遂げているように見える、ということを挙げておく』

 ユキノが最後の項を指し。
 
「もし、黒い砂が人体に影響を及ぼすもので、ニルヴァーナ文明が滅んだ原因だったのだとしたら……と考えておりましたが、それは杞憂かもしれません」

 黒い砂の影響を受け続けた生物たちが、影化せずに存在しているということは、そういうことなのだろう。
 しかし、契約者にのみ発現している能力のことを考えれば、非契約者の開拓民たちにも知れず、何かしらの影響があるかもしれない、と考えることが出来た。
 
 ユキノが更に、アクリトの報告を先に進めた。

『各地で確認された黒い砂の分布から判明したことだが、
 “黒い砂”は、開拓が進んだ街ほど含有量が少ないことが分かっている。
 また、開拓の進行に合わせ、黒い砂の含有量が減ったという地も確認された。
 
 黒い砂が、ある種の情報を含み、それをバラ撒くための存在だとするならば、
 情報量の多い文明地では、その存在を保つことが出来なくなるのかもしれない』

 しかし、確信できるものでは未だ無いという。
 繰り返されるファーストクイーンの映像は、やはり、また同じ笑顔で同じ言葉を繰り返していた。
 

■大世界樹

 北ニルヴァーナ、世界樹の森。

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)と共に翔龍で大世界樹を前にしていた。

 翔龍のソニックブラスターを通し、エヴァルトはその声を響き渡らせた。
 
『聞こえているだろう、大世界樹よ。
 お前に問いたいことがある』

 この位置まで来ると、大世界樹は両端を認識できない程に大きい。
 何万年と、そこに在り続ける“生物”は、ただただ雄大だった。
 エヴァルトは薄く「違うとは思いたいが……」と呟いてから、ゆっくりと息を吸い、言った。

『お前こそが“滅びを望むもの”ではあるまいな?』

「へ?」
 と間の抜けた声を上げたのは、ロートラウトだった。
「ちょ、なに言い出してるの!?
 いやいやいやいや、さすがにないでしょ!
 何をしにここに来たかと思えば――ストップストップ!」
 エヴァルトはグイグイと後ろ髪を引っ張るロートラウトを無視し、続けた。
『お前は、パラミタに迫る危機を放置し、先日の襲撃でも抵抗するどころか俺達の邪魔をし、人には危機を救えぬとほざき、ファースト・クイーンには残酷な事実を突き付けた。
 俺には、お前が現況であるなら辻褄が合うように思えてならん』
「そりゃ確かにボクも大世界樹の真意なんて全然予想もつかないけど、いくらなんでも失礼すぎない!?」
『……どうなんだ、答えろ!』
 エヴァルトの声が辺りに渡って行く。
 茂り、風に揺れる世界樹たちの葉音と大世界樹のそれとが、それを呑み込み、やがて静けさが残る。
 答えなど無い、と思えたその時だった。

『僕は、“滅びを望むもの”ではないよ』

 翔龍のモニターが歪み、荒れた。
 やがて、それはゆっくりと収まり、造り物の天使の姿を映し出した。

「セラフィム・ギフト……?」
『僕はマンダーラ――大世界樹だ。

 この姿に、さして意味は無い。
 君たちとコミュニケーションを取るため、これに細工を施し、媒体としているだけだ』
「……“滅びを望むもの”ではない、と言ったな。
 俺たちはそれを信じていいのか?」
 エヴァルトはモニターに向かって問いかけた。
『望んではいない。
 しかし、滅びは必然だ――いや、必然だった。
 
 混沌の海は我々を待ち続けている』
 大世界樹の答えに、エヴァルトは奥歯を鳴らした。
「結局、お前は俺たちの味方なのか、敵なのか――。
 いや、“俺たち”はお前の敵なのか、それとも、味方なのか……答えてくれ」

『僕は正しき理を支持する。

 “滅びを望むもの”も、その点については同じだろう。

 しかし、アレは永い永い誤りの刻の中で生じた歪みによって生じた膿のようなもの。
 歪んだ手が望み、得るものは、やはり歪みに過ぎない。 
 アレが望んでいるのは、滅びと、そして、全てを押し退けた先に存在する自身のための世界。
 なんと傲慢なことだろうか。真に過ぎ去った万事は、創造主にすら触れられぬというのに。
 
 いずれにせよ、歪みは正さなければならない。
 
 だから、“滅びを望むもの”を消滅させる、という点において僕は君たちに同意する』

「“滅びを望むもの”を消滅させた後は?」

『あの造り物の魂――君たちにファーストクイーンと呼ばれるものは悟ったようだが。
 例え、“滅びを望むもの”を消滅させたとしても、滅びを免れることは出来ない。
 
 過ちは遥か古代に起き、選択はすぐそこに迫っている。

 選択するのは、君たちだ。
 残念ながら、僕はその権限を失って久しい』

「とりあえずは敵でも味方でもない、という意味か……?」

『僕の感慨を伝えられるほど、言葉というものが万能でないのは悔しいものだ。
 永く永く、僕はこの地で多くの命を見てきたんだ――――』

 そう残し、モニターに映っていたセラフィム・ギフトの姿は消えたのだった。