空京

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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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エピローグ1


 ニルヴァーナ王都の王宮。


 ファーストクイーンが“王”と呼ばれるクリスタルに触れた瞬間、彼女の持っていたシャクティ因子が弾けた。
 そして、彼女の体はバチンっと感電したように仰け反り、それきり動かなくなった。
 同じように、その瞬間から、巨大空洞とその周辺のインテグラルもイレイザーもイレイザー・スポーンも、動きを止めた。

(“王”は、私が支配した。
 シャクティ因子と私のプログラムとでな。
 今はインテグラルを停止させているだけだが、じきに支配し、操ることができるようになるだろう)

 ファーストクイーンが王に触れたことで、
 ゲルバッキーがファーストクイーンに仕込んでいたプログラムが王に送り込まれたのだ。
 
(この“王”は1万年以上も前、私が構築したものだ)

「こいつも、お前が作ったのか」

 言ったのは、王の元へと来た山葉涼司だった。
 ゲルバッキーが振り向き、続ける。

(その頃、私は“ニビル”と呼ばれていた。
 本物のファーストクイーン様のもとで、様々な研究と開発を行っていたのだ)

「その中に、インテグラルの開発があった、と……」

 花音の言葉に、ゲルバッキーが頷く。
 
(剣の花嫁の強化開発、光条世界の研究、古代ニルヴァーナ文明の研究、シャクティ因子の研究、インテグラルの開発……全て、彼女のためだった。
 私は――僕は、ファーストクイーン様を愛していた。その他の事など、どうでも良かった。彼女が世界を愛したから、世界のために様々なものを作ったんだ)

 頭に直接響くゲルバッキーの声は徐々に少年のそれへと変わっていた。
 
(あの頃、ニルヴァーナとパラミタの戦争が続いていて――
 僕たちはパラミタ古代種族への対抗手段インテグラルの増産のため、ニルヴァーナを支える巨人イアペトスの力を使おうとした。
 そのためには、彼女とイアペトスをリンクさせる必要があった……。
 
 だが、イアペトスは既に“滅びを望むもの”によって侵されていたんだ。
 
 “滅びを望むもの”はイアペトスの中で、ファーストクイーンが繋がるのを待っていた。
 
 そして、イアペトスと繋がった無防備なファーストクイーンを『喰った』んだ。
 ヤツの狙いは、僕の開発したインテグラルの支配だった)

 ゲルバッキーの声は歪み始めていた。
 
(僕は、復讐を誓った。
 僕からファーストクイーンを奪った“滅びを望むもの”を消滅させるために、何もかも捧げようと誓った!)
 
 王都が揺れ始めていた。
 床に散っていた黒い砂が振動で、にわかに浮き上がっていく。
 
 その振動は巨大空洞を揺らし、ニルヴァーナ大陸の全てを揺らしていた。
 



 巨大空洞の付近。
 
 ドージェはゆっくりと目を開け、立ちあがった。
 
 空洞の奥から現れようという者の方を見やる。
 彼の視線の先には、未だ暗闇しか無い。
 だが、ドージェは、そこからやってくる存在を確信しているようだった。
 
 その証拠に、彼の口元は、これまで誰も見たことが無いほど、強い歓喜の笑みを浮かべていた。
 
「ドージェ様…………」

 マレーナの表情は僅かに陰っていた。
 ドージェが強敵と戦えることだけを強く望んでいたマレーナの頬に一筋の汗が伝う。

「――呑まれては……」

 マレーナが言いかけた言葉を、ドージェの雄叫びが呑み込んだ。
 
 ドージェのそれは歓喜であり、感謝のようだった。
 自身の全てをぶつけることの出来る相手が存在したことへの。
 
 

 
 王宮。
 
「……何を、しているのですか?」

 花音は、ボンヤリと問いかけた。
 目の前では、ゲルバッキーが涼司を斬り伏せていた。
 口に咥えた光条兵器で。
 その光条兵器は花音から引き抜かれたものだった。
 
(全ての準備は整ったんだ。
 インテグラルも、その影響下にあるここら一帯のイレイザーもスポーンも全て僕が支配した)

「違います。聞いているのは、そんなことではなく……」

 倒れた涼司の体からは大量の血が流れ、床に広がっていた。

(駒を失った“滅びを望むもの”の現身が地上へ現れる。
 インテグラルの制御を取り戻すために。
 それは、パラミタを攻撃する“龍頭”などとは違い、まさにヤツ自身とも言えるもの……。

 ドージェはヤツと戦うだろう。
 “滅びを望むもの”――イアペトスはドージェにとって、これ以上無い相手だ。
 そして、ドージェはイアペトスに勝つ。ドージェとは、そういう存在なんだ。僕がずっとずっとずっと探し続けていた存在。
 “龍騎士”を破壊した時、確信した)
 
「違う、そんなことじゃない、私が聞きたいのは、何故、涼司さんが、こんな……」
 
(ドージェ。あれこそ、真に『戦うために生まれた者』だ。
 あいつの頭には、今、ヤツと戦い、勝つことだけがあるだろう。
 ドージェはもう止まらない。
 例え、イアペトスを消滅させることで、ニルヴァーナが滅びることになろうとも。
 ドージェは戦い、イアペトスを消滅させる。
 
 その邪魔をする者、するだろう者は、僕が全て排除する)

 ゲルバッキーが口に咥えた光条兵器で涼司に留めを刺そうとする。

「涼司さん!!!」

 花音が叫び、ゲルバッキーを突き飛ばす。

 その間に、契約者たちは涼司の体を回収した。
 
(僕の邪魔をするか……。
 万が一、僕が志半ばで果てた時のために、僕の支配を受けないようお前たちを創ったのは間違いだったかもしれない)
 
 花音がゲルバッキーを抱いた格好で、その身体を発光させ始める。
 
「花音……?」

 かろうじて意識を取り戻した涼司へと、花音は微笑んだ。
 
「本当は、ブライドオブブレイドを超える光条兵器が私の中に宿っていたんです。
 地球人との交わりの果て、ニルヴァーナの知を超えた力が……
 でも――あまりにも強過ぎて、私の身体から、それを引き抜くことは出来なかった」

 花音の身体が発光し始める。

「大丈夫、涼司さんならパートナーロストにも耐えられます。
 私でも、ゲルバッキーを倒すことが出来なくとも、足止めくらいなら……。
 皆は涼司さんを連れて逃げてください!
 
 もうすぐ、インテグラルたちが動き出してしまう筈です。
 だから、早く!!」

 そして、花音の体は光条の光によって爆ぜた。
 

 契約者たちは瀕死の涼司を連れ、王都を脱したのだった。



 花音が光の果てに消えた後。
 そこには歪な形をした光条兵器が残されていた。