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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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●神聖都キシュ

 南カナンの地ではザナドゥの魔族と、契約者たちの協力を得たカナン軍との激しい戦闘が繰り広げられている中、カナンの首都神聖都キシュにも契約者たちが訪れ、ザナドゥ侵攻を決めたという『豊穣と戦の女神イナンナ』への謁見、及び世界樹セフィロト護衛についていた。

(もう既に、セフィロトがザナドゥへの道を拓く準備を進めているのだろうか。カナンはどこまで、ザナドゥに攻め入るつもりなのだろうか……)
 アイゼンティーゲルミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)と搭乗するトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が、今いる場所からでも十分な大きさを誇る世界樹、セフィロトをモニターに入れながら思う。
 今回のザナドゥによるカナン侵攻は、到底見逃せるものではない。魔族が混乱に乗じてカナンを版図に入れようとするのは、防がねばならないと思う。ただそれ以上のことには、首は突っ込めない。事態がこれ以上進めば、もう後戻り出来ない戦いへと足を踏み入れることになるだろう。
「勝たなくてもいい……負けなければそれが私達の勝利。覚えておきなさい、トマス」
 搭乗前にかけられたミカエラの言葉を、トマスが思い出す。
(そうだ……今は確実に、迫る敵を一つずつ減らしていく。今日のような時のためにイコン訓練を重ねてきたんだ。
 その成果を発揮する時が来たんだ)
 気持ちを新たに、トマスが警戒を続ける。
(……俺の一番は、ジャタの森。ザナドゥがシャンバラとカナンの地下にあるという推測が正しければ、ザナドゥの顕現によって確実に影響を受ける場所。それは絶対に許すことは出来ない。
 ならば、ジャタの森に直接向かうべきなのだろうが……)
 別の場所では、センチネルに搭乗する白砂 司(しらすな・つかさ)が魔族や第三勢力の襲来に備えつつ、故郷であるジャタの森を守りたいという思いと、イナンナや他のものを守りたい思いの間で葛藤していた。
(司君は、優しい欲張りさんですね。守りたいものを全部守ろうとするのは、大変ですよ?
 ……でも決して、無理とは言いませんけどね。足りない力があれば補う、それがパートナーってやつですよねっ)
 同じく搭乗するサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は、色々と悩み多きパートナーの心中を察しつつ、必要な時にサポートできるようにと対策を検討する。

 しかし、敵はザナドゥの魔族だけではなかった。
 思惑はそれぞれながら、立場をザナドゥに置き、カナンを混乱に陥れようとする契約者の存在もあった。

「今敵地への道を拓くのは少し性急な気もするけど、今までが後手後手に回っていた印象もあるし……。
 こうして早めに手を打つ事が、せめて裏目に出ないといいんだけどね」
 女神イナンナのいる神殿を臨む下町を、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が周囲を警戒しながら歩く。イナンナの思惑は多くの契約者の知るところとなった今、もしかすればよからぬことを企む者もいるかもしれない。同じ契約者を信じたいエールヴァントだが、そんな可能性を否定もしきれず、同じ目的を持った仲間たちとこうして警戒に当たっていた。
「ま、アレだ。イイ感じに育ったイナンナちゃんを護るのは男の務めってことで――」
 アルフが軽口を叩いたところで、研ぎ澄まされた感覚が、普段とは違う様子を捉える。
「……まて、様子がおかしい。……こっちだ!」
 アルフが方角を示しながら、走り出す。後を追いながら、エールヴァントが仲間たちに連絡を取る。
 直後、何かが崩れるような音が響いた――。

「せっかく魔族侵攻なんて面白い事態になってるのに、撤退されてはつまらないからね。
 ザッハーク、このまま神殿を目指すよ!」
「言われずとも心得ておる、悪徳こそこの世の華だ」
 帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)の振るった斧が、石造りの柱を穿ち、自分たちが通ってきた道を塞ぐように倒れる。ザッハーク・アエーシュマ(ざっはーく・あえーしゅま)もそれに続き、周囲に張っているであろう護衛からの追撃を振り切りつつ、二人は引きつけ役を担う。
「おーおー、派手にやってるねぇ。ま、荒事はロックに任せて、ボクは神殿にこっそり入り込ませてもらうよ。
 混乱すればするだけ楽しいじゃん! 平和とかぶっちゃけ興味ないし!」
 二人の様子を確認して、春瀬 アンリ(はるせ・あんり)が物陰に隠れ、一人神殿を目指す。
「ああ、僕のかわいい天使が傷つかずに出てこれますように!」
 ……その頃、アンリに置いていかれたクリストフォーロ・ビオンディ(くりすとふぉーろ・びおんでぃ)も、神殿から少し離れた場所で混乱を誘い、神殿に近付く一行を援護しようとしていた。

「この一大事に攻撃を仕掛けてきやがって! 待ってろ、そんな輩はオレと一緒にウルトラダイナマイトだ!」
「ウルトラダイナマイト? どういうこと?」
 バルシャモ・ヘックリンガー(ばるしゃも・へっくりんがー)の吐いた言葉を気にしながら、豊緑 遥(ほうえん・はるか)が連れて来たペットと一緒に、該当する現場へ直行する。
「え、ウソ!? こんなところまで近付かれてたの!? どうしよう、ロキュの心配事が当たっちゃった……!」
「そんなことよりナナメさん、急ぎましょう! 神殿まで行かれたら、イナンナさんが……!」
 戸惑いの表情を浮かべるナナメ・アングレー(ななめ・あんぐれー)にハッパをかけて、ロキュ・タフティア(ろきゅ・たふてぃあ)も騒ぎの発生した地点へ急行する。
「くっ、これは一体どういうことだ!? 魔族はまだこのキシュまで侵攻していないのではなかったのか!?」
『ガオオォォン!』(どうやら魔族に味方する者がいたようだ。おのれ魔族め、これだから我は気にくわんのだ! 待っていろ、目にした暁には頭から噛み砕いてくれる!)
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)も、事態の把握に務めんと現場へ駆けつけ、あちこちに倒れる石柱や石像を目の当たりにして、襲撃を行った者、そして魔族への憎悪を高めていく。
「人間と魔族だけじゃなくて、人間同士でも……こんなことばっかりやってて、本当に平和は来るのかな……?」
「……敵がいる、ならば戦うだけだ。……行くぞミシェル。安心しろ、俺が守ってやる」
 騒動を起こした者が魔族ではなく同じ契約者と知って、ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が落ち込んだ表情を浮かべる。そのミシェルを連れながら、影月 銀(かげつき・しろがね)はミシェルを守り抜くことと、ミシェルにこのような顔をさせた契約者を決して許さないと心に誓う。

「ロイヤルガードの葛葉だ、シャンバラの契約者がこんな事をして、ただで済むと思っているのか!」
 襲撃を行う契約者の姿を捉えた葛葉 翔(くずのは・しょう)が、身分を明かした上で警告を行う。
「俺には俺の楽しみってのがあるんだよね!」
 しかし、緑郎は翔の警告を意に介さない。代わりに柱を傷付け、翔たちへ倒れかからせることで応える。
「翔クンへは、指一本触れさせないよ!」
 翔の前に出たアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が、盾を掲げて倒れてくる柱から翔と仲間たちを守り切る。
「そこまでなさるのでしたら、このメイヴ・セルリアン(めいう゛・せるりあん)とジェニファー両名が、お相手しますわ!」
「こんなことして、許さないんだからっ! メイヴ、頑張って!」
 ジェニファー・サックス(じぇにふぁー・さっくす)の加護の力をもらったメイヴの、音速の太刀が緑郎とザッハークを襲う。二人の間を衝撃波が突き抜け、傍にあった石が砕け、破片が飛び散る。
「いてててて! ここに留まってちゃまずいな、行くぞ!」
「待ちなさい!」
 なおも神殿へ向かおうとする二人を、翔とアリア、メイヴとジェニファーが追う。そして、神殿が間近に見えてきたところで、連絡を受けた仲間たちが二人を回り込むように布陣した。

「魔族が来るかもしれないってのに、こんなことで手を煩わせんなよな……っと!」
「りゅーき、油断してるとケガしますよ!」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が、飛んでくる石や岩を避けつつ、他の仲間たちと徐々に包囲網を狭めていく。
「あちゃあ、これ本格的にヤバイかも――」
「……おい、こっちだ。俺が奴らの目をくらます、その隙に逃げろ」
 不利を悟った緑郎の耳に、互野 衡吾(たがいの・こうご)の声が届く。
「な、どこから――」
「あーはいはい、そんなのアトアト。こっちとしてはむざむざ死なれるのだけは困るの。
 だから嫌でも助けられなさい。分かったわね?」
 反論を口にしようとするが、栗貫 枝来(くりぬき・えくる)の威圧じみた視線に、緑郎は首肯する。
「行くぞ……今だ!」
 合図と共に、辺りに闇が展開される――。

「何、仲間がいただと!? 待て、逃がすか!」
 生じた闇を振り払い、翔が爆発的な加速力で接近し、両手で持った剣を、闇を払い落とすが如く振り下ろす。
「……ちっ」
 剣は、人の大きさほどの石を断ち切っていた。もちろんそれは、今まで契約者たちが追っていた者ではない。
「皆、警戒を緩めるな。まだ近くに潜んでいるかもしれない」
 仲間たちに指示を出し、剣を収めた翔が、周囲の様子を改めて確認する。通って来た道は岩で塞がれ、景観は随分と様変わりしていた。
「……先が思いやられるな」

「……申し訳ありません、優斗殿。不審者は追跡を逃れたようです」
 HCを操作していた諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が、申し訳なさそうな表情で風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に経緯を説明する。
「そうですか……いえ、僕も不注意でした。これは警戒をより強めた方がいいですね。
 隼人が頑張ってくれてるんです、彼の努力を無駄にしない様にしましょう」
 今頃は南カナンで奮闘しているはずの弟、おそらく彼らが頑張っているからこそ、今はキシュは魔族の脅威から逃れられている。
 そんな中、一部の契約者の裏切りで、事態を悪化させる真似だけは避けたい。
 優斗は気持ちを新たに、周囲の警備につくのであった。

「マリカ、あなたなら答えられるでしょうから聞くわ。……魔族はああして、心に闇を持った者を焚き付けたりするような真似もするのかしら?」
 騒動の鎮圧を確認して、再びワイバーンでの警戒に戻った崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が、同乗するマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)に尋ねる。
「……はい。ですが、全ての魔族が、とは言いません。魔族にも思想や文化の違いがあり、取る行動も異なります」
「そう……ふふ、まるで人間と同じね」
「あ、あの……」
 決して魔族と人間が同じと言ったわけではない、そう言おうとしたマリカの口を封じて、亜璃珠が口にする。
「折角ザナドゥに関わるのであれば、何かしら持って帰られるものが欲しいですわ。……あなたも、思うところがあるのでしょう?」
 問われて、マリカは少し黙って、そして小さく言葉を口にする。
「……出来ることなら、一度ザナドゥに戻りたい、です。あの場所で、自分のすべき事を見出したい、とは思います」
「……そう。なら、護衛をしっかりしないとね。また先のような襲撃者が現れないとも限らないから」
「はい……」
 視線を落とすマリカを背後に、亜璃珠が警戒を続ける――。