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リアクション
(もうちょっと奥まで行きたかったけど、ま、これだけ警備が厳しかったらしょうがないよね♪
さ〜て、イナンナの所まで行けるかな? もちろん狙いは石化だけど、ま、少しでもザナドゥ侵攻を遅らせられればいいかな♪)
シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)に加護の力をもらい、重装甲と怪力で柱を壊しながら、バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)が一歩、一歩と歩みを進める。その影に潜むようにして、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が状況を楽しむように、やって来るであろう護衛の契約者たちを待ち焦がれる。
「警戒していたのが当たりましたわね。
何故悪魔に……いえ、既に貴方と言葉を交わすだけ無駄ですわね。――イナンナ様を害させる訳には参りません、ここで始末させていただきます。
……覚悟なさいませ」
セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が険しい視線で襲撃者を見据え、杖を構える。
(こいつら見てっと、ザナドゥを思い出すぜ。懐かしいな……俺を作ったクソ野郎も居るのかね。
ま、もし見つけたらブン殴ってやるが。今はセシルを守る、それだけだぜ)
セシルにグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)が装備され、彼女を守る鎧となる。
(イナンナ様に何かあってはいけない! たとえ相手が僕と同じ契約者だったとしても、僕は……僕の出来ることをする!)
襲撃者に対し、神楽 祝詞(かぐら・のりと)が後方に立ち攻撃や援護を行おうとする魔法の使い手を護る位置に立つ。彼の前方にはパートナーのエルフォレスティ・スカーレン(えるふぉれすてぃ・すかーれん)が立ち、歩みを進めるバルトに一太刀浴びせんとして、逆に弾き飛ばされる。
「エル姉!」
「ワシは心配無い! 祝詞は皆を護る事に集中するんじゃ!」
祝詞の声に応えるように立ち上がったエルフォレスティだが、バルトとの実力差は明らかであった。
「その意気や良し……ですが、一度決めた道を易々と譲るわけにも参りません。ここは通らせてもらいます」
東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)のかざした杖が光り、マッシュ、シャノン、バルトに炎や氷、雷、毒や眠りといった効果への抵抗力をつけさせる。サポートを受けたバルトはエルフォレスティを退け、なおも進む。通路を抜け、広場を超えれば後はイナンナの居る空間へ、というところで、イナンナの護衛についていた契約者たちが立ちはだかる。
「――リベル・ミラビリス――
禁じられた預言書の一節……さあ、貴方はこの攻撃から、逃げられますか!?」
葉月 可憐(はづき・かれん)の左手に握った『ピアッシング・レイ』から、無数の弾丸が放たれる。それらは一旦はバルトの足を止めるが、雄軒の降ろしたフラワシによって阻まれる。
「敵は前衛1、後衛2! 可憐、私が弓で後方を狙い撃ちます!」
「うん、お願い! 私はこの魔道銃で……!」
弓を番えるアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)に頷いて、可憐は右手の魔道銃を構え、襲撃者一行へ魔力の弾を見舞う。全員が対応に追われる隙をついてのアリスの射撃は、しかしシャノンのイブリースに防がれてしまう。
(やはり現れたか、襲撃者……! たった三人でここまで突破してくるとは、いずれも相応の強敵。
だが、ここには俺の他、イナンナの護衛につく者たちがいる。イナンナの元へは行かせない!)
バルトの歩みを止めるべく、沖田 聡司(おきた・さとし)が踏み込み、バルトと切り結ぶ。バルトの力任せの攻撃を聡司は受け流し、生まれた隙をついて刀による一撃を見舞わんとし、バルトも致命的な一撃を受けまいと武器で攻撃を弾く。
「小賢しい、我等の前に立ちはだかる者共、等しく焼き尽くしてくれる――」
「! シャノン!」
バルトを援護しようとしたシャノンの前に雄軒が、自らを鉄のように硬くして盾となり、振るわれた高速の斬撃を受け止める。
「……見切られるとは心外。しかし、これ以上無粋な真似をするようであれば、この刀の錆になりますがよろしいか?」
聡司がバルトと交戦しているのを邪魔させまいと、後衛の二人を狙った佐々木 小次郎(ささき・こじろう)と雄軒・シャノンの戦闘が勃発する。その後も襲撃側と護衛側の戦闘が続くが、戦闘に投入される人数の違いから、戦況は徐々に護衛側に有利になっていった。
「イナンナを……私の友を害するなら、貴様ら全員死ね!」
そして、四方八方から攻撃を受け、襲撃者一行の足が止まったところへ、鬼崎 朔(きざき・さく)――姿を10歳ほどの、イナンナに似た容姿に変え、名も『朔・アーティフ・アル・ムンタキル』と変えている――の操るエンリルのパンチが炸裂し、襲撃者一行をまとめて広場から弾き出す。
「うーん、あそこまでやられちゃ、これ以上近付くのは難しいかな?
イナンナを石化してザナドゥに持ち帰れたら万々歳だったけど、仕方ないね。それじゃあ……」
バルトの影から飛び出したマッシュの視界に、戦闘の余波から逃れようと身を隠していた、イナンナに仕える神官や使用人の姿が映る。
怯える、あるいは果敢にも守ろうとするその者たちへ、マッシュが近付いていく――。
一体何があったのですか、と尋ねてくるイナンナに対し、契約者からの報告を聞いたマルドゥークは、今後の影響を考えると黙っておきたい所がありつつも、嘘をつくわけにもいかず、口を開く。
「……イナンナ様を狙い、数名の契約者たちが襲撃を仕掛けてきました。その者たちは護衛についていた契約者の者たちで撃退したのですが、数名の神官や使用人が巻き込まれてしまいました」
「……そう……」
惨殺ではなく石化という辺りに、襲撃者の意図が感じられるようであった。まるでその者たちがザナドゥの尖兵として、ザナドゥに刃向かう者たちをわざわざカナン式のやり方で罰したようにも見て取れる。
「復旧の目処はついています。イナンナ様はどうか、ザナドゥへの道をお拓きください」
一礼してその場を後にするマルドゥークを見送り、イナンナは唇を噛み締める。
(……戦うと決めた以上、このようなことが起こることは想像していた。
けれど……実際にそれが起きて、平然としていられるほど、私はまだ強くない)
一定の戦果を挙げ、キシュから離れたマッシュ、シャノン、雄軒、バルトは、ロノウェと合流を果たすため、南下する。伝達役に送った式神が、一行の働きを労う言葉を持って帰って来たのをシャノンが確認する。
(ロノウェ様は、捨てられた身の私に居場所を下さった……その恩義の為にも今後、より成果を挙げねば……)
意思を新たにするシャノン、そして一行が去っていく後ろ姿を、先にイナンナ襲撃を目論んだ緑郎、ザッハーク、アンリ、クリストフォーロが見つめる。
「俺たちも一定の戦果を挙げたはずだ、それを手土産にバルバトスの所へ行こう!」
「ふむ、行ってみる価値はあるやもしれぬな。なに、いざという時はそなたが魂を差し出せばよい」
「ハァ!? 俺が!? なんで!?」
「決まっているだろう、何故に我が魂を差し出さねばならぬ」
緑郎とザッハークが押し問答を続けている横で、アンリは付き合ってられないとばかりに立ち去ろうとする。
「アンリ、何処へ行くのです!?」
「付いてくんなよ! ボクは別に面会する気ないからね〜。魂だってあげるつもりないし〜」
「そんな、アンリのためだったらこの魂、喜んで――」
自分の胸に手を当て、そして突き出すクリストフォーロを、アンリが冷たい視線で見つめる。
(襲撃は切り抜けた……だが、いつまた襲撃が起こるか分からない。
イナンナも今ので相当、心に衝撃を負っているだろう。こういう時もまた、ザナドゥへの道が拓かれた直後同様、危険だ。
俺たちで護衛を完遂するためにも、気は抜けないな)
背を向け、セフィロトに力を与えるイナンナを見遣り、神崎 優(かんざき・ゆう)が思いを新たに周囲の動向に神経を研ぎ澄ませる。
(護りたい、掛け替えのない人達を……もうこれ以上、犠牲を増やしたくない)
真剣な表情の優、その横顔を水無月 零(みなずき・れい)が見つめ、凛とした表情で視線を外し、周囲の警戒に当たる。周りでは、襲撃の傷跡を少しでも修復せんと、有志たちが復旧作業に当たっていた。
(……そう、結局占い通りにパイモン達は攻めてきたの。人もまた唆され、刺激され、争いが勃発する。
人と悪魔の共存できる平和は、この大陸に必ずなし得る。……だからあたしは、たとえ同胞であったとしても、必要ならばこの手で……)
破壊された神殿の一部を、空からレヴェナ・イェロマーグ(れう゛ぇな・いぇろまーぐ)が見下ろしながら、これからの自分の取るべき道を見定めようとする――。