空京

校長室

創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

リアクション

 北ニルヴァーナ、超巨大空洞
 対岸はどうにも遠く、壁面なのか暗部なのか明確には判別できない。底部に目をやれば闇部が広がるばかり。ナラカにでも通じているかのような、不気味で寒気すら覚える暗闇が契約者たちを待ち受けていた。
 この先に、インテグラルの本拠地と化したニルヴァーナ王都がある。そこに眠る『王』の元へファーストクイーンを送り届けること。それが今回の任務の概要である。
 国家神であるファーストクイーンや創世学園校長の{SNL9998758#ラクシュミ}を乗せた戦艦を、数十機からなるイコン部隊と機動要塞が護衛を行っている。もちろん戦艦に同乗する契約者たちも志は同じだ。
 要人警護の規模としては悪くない、それでもイコン機の配備が多いのは―――
「現れたようですよ」
 イコン部隊の先頭、プラヴァー(デフォルト)内でシンシア・ローレンス(しんしあ・ろーれんす)が呟いた。
 空洞を降下して間もないというのに闇部が蠢き、揺れ始めた。それがイレイザーイレイザー・スポーンの群れだという事に気付くのに一度のまばたきも必要とはしなかった。
 どちらも背中から無数の触手の生やしているが、その姿は翼を持ったドラゴンのよう。違いと言えばイレイザーの体長が20mなのに対してスポーンは2m程しかないといった所か。何にせよ、視界が完全に遮られてしまう程の数の敵が、群れを成して迫り来ていた。
「来るぞ!! 全機戦闘準備!!」
 ヘクトルの怒号が響く。機動要塞の砲撃を合図に、イコン各機が砲撃を開始した。
 爆音が鳴り響き、一気に爆煙が広がった。厚雲が覆い被さったかのようにイレイザーの群れは見えなくなったが、それも一瞬のこと。すぐに雲を突き破ってイレイザーらが飛び出してきた。
「あれが……イレイザー
 シンシアの隣でリシア・パルビネス(りしあ・ぱるびねす)がポツリと言った。本人も気付いていないことだろう、彼女の唇は小刻みに震えていた。
「強敵なのは最初から分かっていたことです」
 シンシアが敢えて冷たく言う。「弱気になるのは貴方らしくありませんよ、リシア
「……そうね。そうだよね。今は全力で戦艦を護りきることを考えましょう」
 顔を上げたリシアの瞳には強い輝きが戻っていた。2人はプラヴァー(デフォルト)を駆って戦場へと飛び込んでいった。


 百を越えるイレイザーが群れ飛ぶ戦場。そんな戦場の、しかも、ど真ん中で―――
「あのっ! ねぇ!! お姉ちゃーん!」
 及川 翠(おいかわ・みどり)がパニックになっていた。
「わあっ!! スポーン!! スポーンが来てるよっ!!」
「そうね。来てるわね」
 手当たり次第にボタンを押したいのにそれが出来ないと、対称的にミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は冷静に操縦桿を握り倒していた。
「右から突破しましょう。、合図で粒子砲(『艦載用大型荷電粒子砲』)をお願いします」
「りゅ、粒子砲? 粒子砲?!! 粒子砲ってどれ?!!」
「落ち着いて、。正面左方に大きなボタンがあるでしょう? そのすぐ上のボタンよ」
「ひだ……左……あった! あったよ! ……でも……いっぱいあるよ?!!」
 は終始目を回していた。イコン初搭乗の彼女にとって、八方から敵が沸いてくるという戦況はいささか難易度が高すぎたようだ。それでも―――
「押すよ?!! これ、押しちゃうよ?!! 押すからねっ!!」
 何度も何度も確認しながら、若干遅れたタイミングを取り戻すかのように勢いよくボタンが押した。直後、『艦載用大型荷電粒子砲』が放たれる。
「ほうら、そうそう、思った通りだ」
 シルフィードの『艦載用大型荷電粒子砲』がイレイザー・スポーンの手足胴部を次々と焼き消していくのを見物しながらに、ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が嬉しそうに言った。
「言った通りになっただろう。そうさ、どうせ倒すのはイコン殿がやってくれるさ」
「……確かに。あの規模の攻撃は……とても出来んな」パートナーのニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)が『小型飛空艇』を寄せて返した。ノアは器用に『空飛ぶ箒シュヴェルベ』を滑らせて対面に回っる。
「だろう? だからニクラス、必要ない限り手を出さなくていい。張り合った所で勝ち目はないし、そもそも張り合う意味がない」
「……では我々は何を」
「動きを封じる方法は、手足をもぐだけじゃないだろう?」
 いたずらな笑みを浮かべ、ノアは群れの中に『サンダーブラスト』を放った。『紅の魔眼』で高められた魔力で放たれた雷蠢は強烈な音と光でスポーンの注意を引きつけた。
「攪乱役ってのも、たまには面白いだろう?」
「……御意」
 ノアが術を放ち、ニクラスが護衛する。戦場の複数箇所に放たれた『サンダーブラスト』は見事にスポーンらの動きを止めていった。その一瞬を狙い、イコン部隊が仕掛けるわけだ。
「有象無象が私に勝てるなんて思わないでよ!」
 勇ましくレイヴンTYPE―Cを駆っているのは葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)である。戦艦の護りを主としているが、両腕の『ガトリングガン』を掃射する様は、さながら特攻隊長のようだった。
「さぁさあさあさあ!!!」
さん、一度上昇します」
「オッケー。じゃあ、お土産投げとくよ」
「お願いします」
 機体の上昇に合わせて『ミサイルポッド』を向け、発射した。まとまって襲いかかってきたスポーンらを一度に狙い撃ち。もちろんそれだけで仕留められるなんて思っていない、すぐに『ガトリングガン』で仕上げの激射を放ってゆく。
さん、そろそろ」
「え? もう? なら仕方ないわね」
 後先なんて端から考えていない。故に早くも弾切れが近いようだ。弾が切れたなら補給に行けば良い、しかしその前に―――
「ただ引き返すなんて逃げるみたいで格好悪いもんね」
 は眼光鋭くレイヴンTYPE―Cの力を解放した。天御柱学院の生徒にのみ許可された奥義『覚醒』を発動したのだ。
「最後は派手にいくわよ!!」
 細かい照準なんて定めない。無理に制御することもしないままに『サイコビームキャノン』を発射した。
 『覚醒』によって威力が増した光線は20体近いスポーンを一度の掃射で消し去ってみせた。
「向こうも派手にやってるみたいだしっ!!」
 ヒポグリフの『大形ビームキャノン』でイレイザーの一体を狙い撃ちながらに桐生 理知(きりゅう・りち)辻永 翔(つじなが・しょう)に言う。
「こっちも『覚醒』使った方が早いんじゃない?」
「それは当然そうだろうが、」
 は一度言葉を切った。ヒポグリフのキャノンを避けたイレイザーの背後に回ると、右翼を狙い、切りつけた。
「っと、さすがに切り落とすのは無理か」
「無駄口厳禁。すぐに撤退」アリサ・ダリン(ありさ・だりん)の進言にも「わかってますよ」なんて憎まれ口で返した。
 の『ストーク』が反撃を受けぬよう、理知はすぐさま『新型アサルトライフル』で段幕を張り、イレイザーの視界を遮った。ヒポグリフの機体を操っているのは主に北月 智緒(きげつ・ちお)の方だが、理知が恋人の事を理解し始めたように、最近は智緒もまた理知の思考傾向を理解し始めていた。普段はドジが多くても彼女が今なにをしようとしているかは直感で分かるし、ミスも起こさない。故に一度は流された『覚醒』の発動タイミングについても―――
「おい……あれって!!」
 が気付いて叫ぶ。スポーン、そしてイレイザーの群れの奥から最悪の敵が姿を現した。
 焔の剣を持つインテグラル・ビショップ槍を持ったインテグラル・ビショップが2体。それらが戦艦めがけて一直線に向かい来ていた。
理知、今よ!」
「そうねっ!!」
 智緒の声と同時に『覚醒』を発動した。ブースターを噴かして一気に駆けると、突撃を目論むビショップに『新式ビームサーベル』で斬りかかった。
「いきなりのお出ましとは……せっかちな奴だ」
 ヒポグリフビショップに体ごとぶつかってゆくのを横目で見つめて成田 樹彦(なりた・たつひこ)は自機の『覚醒』を考えた。クルキアータ(天御柱仕様)も『覚醒』が可能だ、しかし―――
 瞬時に思い留まり、それを止めた。そうした後に『銃剣付きビームアサルトライフル』で槍持ちのビショップの顔面を狙い撃ちにした。
「さすが兄貴、ナイス判断」パートナーの仁科 姫月(にしな・ひめき)が嬉しそうに笑んで言った。
「『覚醒』には時間の制約もある。俺はただ、当然の判断をしただけだ」
 ビショップの襲来は予想よりも早すぎたが、それでもスポーンイレイザーの群れを駆逐できたわけでも、その兆しが見えたわけでもない。契約者たちもイコンも大いに奮闘してはいるが、おそらくは未だ全体の一割も討伐できてはいないだろう。
 もちろん、戦艦が墜とされてしまえばそれまでだが―――
「大丈夫、私と兄貴とクルキアータなら、この程度、楽勝よ!」
「だと良いがな」
 二体いる槍持ちビショップのうち一体は辻永 翔(つじなが・しょう)らが引きつけている。残る一体を自分たちが引きつけているうちに『覚醒』状態のヒポグリフがリーダー格の焔の剣持ちビショップを深手を負わせれば一気に―――
「なっ!!」
 突然、槍持ちのビショップが強引に間合いを取り、そしてリーダーのビショップの元へと飛び寄った。ヒポグリフに槍を突き出し、それが受け捌かれるとすぐに後退、間髪入れずに次のビショップが同じく槍を突き出しているが、これも決定打を狙っているようにはとても見えなかった。
(……決定打というよりも、むしろあれは……)
 ヒットアンドアウェイ?
 3体のインテグラル・ビショップが『覚醒』状態のイコンを相手に時間稼ぎとも取れる方法で戦っていた。