空京

校長室

創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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 後先を考えて戦う、そんな余裕が最も無いのがここ、焔の剣を持つインテグラル・ビショップとの戦場だろう。
 第一線では辻永 翔(つじなが・しょう)が乗る第三世代機『ストーク』がビショップに挑んでいるのだが―――
「っつ!!」
 高周波ブレードでガードしたというのにメイクリヒカイト‐Bstは大きく弾き飛ばされた。操縦する十七夜 リオ(かなき・りお)は大型ブースターを全開に噴出して機体を立て直した。
「やっぱ重いな、あの剣」
「でも悪くない」パートナーのフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がすぐに言った。
「剣を振らせない事が大事。今のままでいい」
 ビショップの『焔の剣』は振るだけで大量の炎を発生させる効果を持っている。故に大きく振らせないように『ツインレーザーライフル』や『大型高周波ブレード』で剣撃の初動を抑えてきたのだが―――
「左腕は?! まだイケるか?」
「……問題ない。次の一撃くらいなら
「よし! スピードならこっちの方が上だ! このまま行くぞ!!」
 無茶は承知、それでも如何に強がりだとしてもやらねばならない時がある。
「さぁて、そろそろ滾ってきたかぁ? おい」湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)は新顔であり自機であるらいでんに言ったのだが、パートナーのスパナ・ワンエイティー(すぱな・わねいてぃー)が鼻息荒くこれに応えた。
「おぉう……もっと……ハァハァ……もっときつく縛ってくれても構わない……」スパナは操縦席に座った状態で「背もたれを巻き込んだ梯子縛り」になっていた。
「くっ、この締め付け、ぐっと己が真のギフトに近づいている気がする……」
「………………」
 触らぬ神に祟りなし。飛び火もヤケドも御免立ったのでは目を逸らしてこれを無視した。「何事も経験」なんて言葉があるが知る必要のない世界もまた確実に存在すると彼は信じていた。
 と、そんな事より何よりも、今まさに『機晶ブレード搭載型ライフル』のチャージが終わった所だった。
「よぅし、第三世代機の力、見せつけてやろうぜ」
 同じ第三世代機である辻永の『ストーク』がビショップと交戦中、メイクリヒカイト‐Bstがそれをフォローしている。実はそれもこれも全てはこの瞬間のため。らいでんチャージを完了させるための陽動だったのである。
「喰らいやがれ!!」
 いつにも増して強気な声で機体を駆る。それに合わせて陽動の二機がビショップから距離をとった。
「おぉおおおおおおおらぁ!!」
 爆音と共にチャージショットが放たれた。先に離れた二機の弾幕がビショップの注意を引いている。圧縮された機晶エネルギーの轟砲がインテグラル・ビショップの右肩にぶち当たり―――
「やった!!」
 が喜声を上げた。チャージショットは確実にヒットした、この目でそれをしっかりと捉えた、間違いない。手に入れたばかりの第三世代機、その初陣は見事敵の右肩を貫いた―――
「………………あれ?」
 薄い煙が晴れた時、それらが杞憂だったと突きつけられる。
「おいおい……マジか」
 チャージショットはビショップの右肩後背部を抉りはしたものの、貫くことは叶わず。ビショップはすぐに右腕を振って『焔の剣』をに向けてきた。
「おぉぉぉぉぉぉおい!! 第三世代でこんなもんかよっ!!」
 は脱兎の如く逃げ出した。
 貫く事はできなくても、装甲は抉った、その事でビショップに警戒される、ターゲットにされてしまう、だから逃げるのだ、と。
 まったくもって何たるヘタレか。
 まだまだ戦える最新機は僅かな戦績を遺して第一線から退いていった。




「くそっ!!」
 連射が響いたか。『高初速滑腔砲』の弾が切れてしまった。猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は潔く『高初速滑腔砲』を捨てて『スフィーダソード』を構えさせる。
 勇平の覇気に応えるようにバルムングは勢いよくイレイザーの懐に飛び込んでいった。
 襲い来る巨大な触手をバルムングは一刀で薙ぎ斬った。しかし敵の狙いは次撃であった。気付いた時にはそれはすぐ目の前まで迫っていたのだ。次の瞬間、バルムングの左肩が一瞬で噛み砕かれた。
「マスター!!」
 セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)の叫び声が聞こえた。しかし勇平は止まらなかった。
「ぬぁああああああ!!!」
 とっさに体勢を傾けたおかげで左肩だけで済んだ。『ダブルビームサーベル』ごと持って行かれたが、まだ腕は一本残っている。
 ブースター全開! 体ごと飛び込んでイレイザーの首に『スフィーダソード』を突き立てた。
「マスター!!」
 そのまま突き貫こうとする勇平を制してセイファーバルムングに指示を出した。イレイザーの首に刺さっている剣に、横から『機神掌』を当てさせたのだ。
 首皮を裂いて剣先が飛び出す。空中でそれを掴むと、バルムングは全速で退避を始めた。
セイファー!!」
「ダメです……退避します」
 白銀の騎士を思わせるバルムングの装甲はどこもかしこも無惨に歪み、砕けている箇所ばかりである。
「私は……」
 『たとえこの身が朽ち果てたとしても』そんな勇平の覚悟は承知している、だからこそセイファーは退避することを決断した。
「私は……私はマスターを死なせたくありませんっ」
セイファー……」
「一度戻りましょう、これは逃げではありません」
 『ブレス・ノウ』を発動し、イレイザースポーンの攻撃を避けて進む。目指すは戦艦の後方、機動要塞だ。




 バルムング機動要塞の元へ辿り着いた時、そこには多くのイコンが補給と修復の為に帰還していた。主として整備を行っているのは天御柱学院の長谷川 真琴(はせがわ・まこと)イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)である。
「一度全て剥がします。えぇ、えぇそうです、ここです……そうです! 一面全てです!」
 普段は穏和な真琴が声を荒げている。作業にあたる人員が足りず、要塞のクルーさえも駆り出されるといった事態になっていた。そのため―――
「多少乱暴でも構いません! 早く! さぁ! 剥がしますよ!」
 当然に専門的な知識を持つ者は少なく、思ったように作業は進まない。それでも真琴は明確で分かりやすい指示を出すことを心がけ、どうにか彼らを操っていた。多少言葉遣いが乱暴でもそこに悪意は微塵もない。
「ほぅら、そう、そう。間違えるんじゃないよ」
 移動整備車両キャバリエからパーツを運び出しているのはクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)だ。とりあえず、とキャバリエにイコンパーツを積んできたが、これほど忙しくなるとは思ってもみなかった。
「世代や機体ごとにパーツは違うからね! 確実に届けてくれよ! あ、そこ、戻ってきたパーツはそっちに置いてくれ」
 もちろん彼女もイコンの整備と調整を行う。しかしここもまた人手が足りないのだ。
「敵が多すぎるんだよ、ったく」
 四方どころか八方を囲まれていては仕方がない。出撃した機体はどれも激しく損傷した状態で戻ってくる。エネルギーや弾の補充だけといったケースはほぼ皆無だ。補修では間に合わず全交換という場合だって多い。
 そしてそれは第三世代機だって例外ではなく―――
「もうっ!! どうしてこんな状態になるのよっ!!」
 らいでんを前にジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が発狂じみた声をあげた。後背部と首筋は大きく裂かれ、左腰部に至っては爆ぜたように砕けていた。
「いやぁ、これでも必死で逃げたのよ、でもねぇ、あいつ、しつこくってさ」
 ヘタレパイロットこと湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)が軽口を叩いた。と同時にジヴァに背中を叩かれていた。
「しっかりしなさいよ! 破損状態によっては直せない事だってあるんだからね!!」
 厳しく説教した所でイーリャが彼女に呼びかけた。どうやら機体のチェックを終えたようだ。
「状態は記録したわ、分析は後日。とにかくすぐに直しましょう」
「その前に」ジヴァに問う。
「あなた、もう一度戦う気はあるのよね」
「も…………もちろんっ! もちろんさ。このままで終わるわけにはいかないだろ」
 第二世代機に『ツインリアクターシステム』が加わっただけ、なんて言われ方をする事もあるが、出力量とその威力は圧倒的に第三世代機が上なのだ。このまま尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないだろう、さっきは『覚醒』だって使えなかったし
「……まぁ良いわ。パーツが足りないから私たちのプロトタイプ・ストークをバラして貸してあげる。いい?!! 必ず活躍するのよ!!」
「お、おぉ……」
「急ぎましょう」
 二人は急いで自機の解体作業に取りかかった。そうしている間にも契約者たちのイコンは絶え間なく戻ってきている。
「敵もこっちも慌ただしすぎるわよ、もう!!」
 一息すら入れられない、そんな修羅場はまだまだ続きそうである。