|
|
リアクション
戦艦を護りながら進む最前線。
未だ減らず沸いてくるスポーンの群れに対して、『多弾頭ミサイルランチャー』に『バスターレールガン』、『二式(レプリカ)』に『試作型カットアウトグレネード』と、もてる武器の全てを駆使して、と言えば格好は良いが実際には手当たり次第に半ばヤケクソ気味にジェファルコン特務仕様は銃を乱射していた。
「あ〜〜〜もう、鬱陶しいっ!!」
機体の操縦者は笠置 生駒(かさぎ・いこま)とシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の2名。しかしイラついているのは酔いどれヴァルキリーのシーニーだった。
「なぁにが「戦いはまだまだまだまだ終わらない」よ、こっちは早よ終わらせたいっちゅうねん、好きでやってるんやないっちゅう話や、なぁ生駒、あんたもそう思うやろ?」
「……あ、あぁ、そうだな」
しまった、絡まれた。生駒はどうにか話を逸らせないかと辺りを見渡した。
伊勢からの通信は……無い、残念。共に戦艦の護衛についている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)からの指示があれば簡単に話を逸らせたのだが、無いものは仕方がない。しかもここはイコン内部の操縦席、元より逃げ場はない。というかなぜ戦場のど真ん中で酔っぱらいの相手をしなければならないのだろう……。
ため息ひとつ。生駒は腹をくくって言葉を返した。
「……確かに一見すると敵の数は減っていないようにも見える。しかし無限であるはずはない、必ず終わりは訪れる。ワタシたち一人ひとりが役目を果たせばきっと、、、」
「………………」
「…………?」
おや? 反論がない。てっきり弾幕の如く反論がやってくると思っていたのだが……シーニーは呆れ顔で「こんな時まで真面目やなぁ」なんて言ってきた。
「ちょっ……その言い方は、どうだろうか」
「長生きせぇへんで、自分」
「……そうだな。ここで死ぬと確かに長生きはできないという事になる」
「縁起でもないこと言うなや、気持ち悪い」
激しく心外だ。反論というか抗議をしようとした所で伊勢から通信が入った。
「なぁに? ずいぶんと楽しそうね」
通信はコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)からだった。全く気がつかなかったが、酔っぱらいが勝手に通信を繋いでいたようだ。
「お楽しみのところ悪いんだけど、あれ、なんとかしないとマズいわよね」
「アレ?」
戦艦の進行方向に目を向ける。相変わらずのスポーンの群れ、その中に何やら巨大な影が見えた。
「私たちが行きます!」
フランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)がゾフィエルを、そしてキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)がアウクトール・ブラキウムを駆って飛び出した。影の正体は「インテグラル・ナイト」、それも1体ではなく5体だった。
「5体ですか……これはさすがに想定外でしたね」
言葉とは裏腹にフランチェスカの声は弾んでいた。
「ですが、ここを乗り切れないようではそれまでですわ! 行きますわよ、カタリナ姉様!!」
「了解です」
カタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)は素早くレーダーを確認すると、迷いなくゾフィエルを『覚醒』させた。
「ね、姉様っ?!! さっそく『覚醒』を使うのですかっ?!!」
「集中して下さい。行きますよ」
「えっ、ちょっ」
戸惑うフランチェスカを余所にゾフィエルが駆けだした。インテグラル・ナイトとは以前にも対戦しているし、今回はそれなりの準備もしてきている。
大丈夫。それに―――アウクトール・ブラキウムの姿も見えたから―――
「さぁ、来たわ来たわよ、それも5騎」
「……確かに向かっては来てるけど……でもこちらからも近づいてるから一概に「来た」と言うのは……」
メインパイロットであるトーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)が呟くように言ったが、
「ほらっ! 来てるよっ!!」
「……もうやってる」
アウクトール・ブラキウムをバリアント型であるジェイセル形態(アウクトール・ジェイセル)に変形させてから『大形ビームキャノン』を発射した。
「良いね良いわね、その調子よ。要は戦艦を護りきればあたしたちの勝ちって事でしょ? どんどん撃ちましょ♪」
「楽観し過ぎ……5騎も居たら、苦戦は、必至……」
言葉はリアリスト。それでもトーマスは「でも、」と続けて強気な笑みを浮かべた。
「私の手掛けた砲撃型イコンの強み、見せてあげる」
大口径のビームキャノンが火を噴く。加えて『ウィッチクラフトキャノン』も掃射した。1体のナイトの腕に直撃、大きく後ろに反らせた所で同一点を狙って追撃を放つ。
爆煙が広がり、他の4体が一斉に散る。その中の1体に狙いを定めてゾフィエルが飛び出した。
煙に隠れてナイトの頭上をとると、その首もとに『二式(レプリカ)』の冷気をぶつけた。剣撃の衝撃と冷気で動きの止まったナイトに『ファイナルイコンソード』を振り放つ。
『覚醒』イコンの『アダマントの剣』による必殺の剣技が、ナイトの太首を一閃、はね落とした。
「やったぁ!!」
「イケますわね」
カタリナはすぐにレーダーを確認した。敵機もそうだが、アウクトール・ジェイセル(アウクトール・ブラキウム)」が先程よりもナイトとの距離を詰めている。これはつまり―――
「離れますよ!」
「えっ?!!」
キャノンも既に止んでいる。『ヴリトラ砲』の準備が整ったのだろう。
「……景気付けの一発」
爆音が轟き、黒いドラゴンが駆け抜ける。高出力のエネルギー砲がインテグラル・ナイトの右肘に直撃した。撃ち抜く事は出来なかったが、装甲の表面を大きく陥没させた。ナイトは腕を曲げようとしていたが、それは叶わず、元より一本だったかのように右腕は伸ばしたままの状態から動かせないでいた。
「うまいこと封じたのう。よぉ考えたもんじゃ」
メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)が感心したとばかりに声をあげた。『ワイルドペガサス・グランツ』に跨がってスポーンを迎え撃っている。一体のスポーンが牙を剥いて襲い来たが、『レジェンドストライク』の一撃がスポーンの体を軽竹のように簡単に裂いた。
「良い切れ味じゃ、抜群じゃのう。そっちは終わったか?」
「あぁ、終わったぞ」
一仕事を終えて鵜飼 衛(うかい・まもる)が戻ってきた。戦艦の各所に『ルーン魔術符【ウルトラパッチ】』や『インビジブルトラップ』を仕掛けてきたという。スポーンが壁面に付こうとしても、その前にトラップが起動して爆発を起こすのだ。
「それともう一つ、面白いものを作ってみたぞぃ」
「面白いもの?」
100m程のロープに戦艦に仕掛けたのと同じ罠が取り付けてある。それを『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』の尻尾にくくりつけて戦艦の前方を飛ばすのだという。
「さて、こちらも派手に行くとするかのう。カッカッカッ」
戦艦の進行方向前方をドラゴンが力強く飛び進む。ロープが伸びきったのを確認してから、一気に盛大に全ての罠を起動させた。
爆発の連鎖。あがる噴煙。スポーンの群壁に空筒のような道が開いて見えた。
「今だ! 機関全速!! 一気に進め!!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が伊勢の乗組員に、また戦艦を護衛するイコンに向けて号令を出した。全ての機体が一気に速度を上げて降下してゆく。
「伊勢を前に出せ! 一気に道を開ける!!」
「随分と今日はやる気じゃないの」コルセアが嬉しそうに言った。
「もちろん」そう返した吹雪の言葉には覚悟が乗っている。
「伊勢が沈んでも味方がたどり着ければいい!! この機を逃すな!!」
呼応するように全機が更に速度を上げる。
インテグラル・ナイトにもインテグラル・ビショップにだって勝利することは難しいかもしれない。しかしそれでも実際に戦える事もダメージを負わせる事も可能だと、これまでの戦いで証明してきた。
各戦地で絶賛交戦中。足止めが成功しているうちに、主船は目的地へと一気に向かった。それを成すことが我々の勝利の証なのだから。
それから間もなく。
主船である戦艦とそれを護衛するイコン各機、そして機動要塞はどうにか辛くも超巨大空洞の底部へと辿り着いたのだった。