空京

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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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地下研究所へ向かえ1

 ルークの鎮座する王宮への道を、メルヴィア率いる部隊が掃討しているころ、同時にルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)アラムの操作するイコンに同乗し、イレイザーの少ない地域を縫うようにして市街地を移動していた。
「アラム君、ほんとに全然迷わないね……住み慣れたところを移動してるみたい……」
ルシアが呟く。アラムはそれについては何も答えなかった。自分でもそのわけが解らなかったからだ。
「もうすぐつくよ。……パートナーの気配は本当にボクの目的地と同じところからなのか?」
「うん、だんだん強くなってきてる」
「そうか……」
リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ)の無事はわかっているものの、彼女がどういう状態なのかはわからない。ルシアはひたすらにリファニーの無事を祈っていた。
 巨大なビルが立ち並ぶエリアから離れ、壊れた塀の幾重にも重なった先に巨大なドームが設営された場所で、アラムはイコンを停止させた。長い歳月を経て、分厚いドームの外壁は何箇所か崩れ落ちている。アラムは黙ってしばらくそのドームを見つめていた。そこへアラムを追っていた契約者たちが追いついてきた。
 ルドュテ清泉 北都(いずみ・ほくと)から通信が入る。
「僕はあまり君とは行動を共にしてなかったけど、君を思ってる人も居るんだし。
 それに、何をするにも一人より大勢の方が上手くいくと思うんだ。
 いくらイコンを一人で操れたって危険だよ、邪魔かもしれないけど守らせて?」
北都のパートナー、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が言葉を継ぐ。
「この辺にもインテグラルが潜んでいるかもしれませんし。援護もなしでは危険です。
 ルシア様もご一緒なのですし」
ルシアの前で言葉にはださなかっが、クナイは密かにリファニーのことで別途懸念していることがあった。それは彼女がインテグラルの手に落ちて長くたっているが故に、インテグラルによって完全に操られているのかもしれない、という点だった。万が一彼女を止めなければならない時は、自分も彼女同様に持つ『熾天使の力』で彼女の力を相殺して止めようと思っていたのだ。
 早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)のパートナー、メメント モリー(めめんと・もりー)はもっと直截的だった。
「んも〜、アラム君ったら水臭いんだから。一言いってくれれば同行したのに?
 ところで……ここって何の施設なんだろ?」
アラムは何の迷いもなく答えた。
「ここは……地下研究所だ」
「研究所? それじゃ余計だよ! 罠とか得体の知れないものがあるかも知れないんだしさ?」
「ありがとう。わかった。一緒に行こう」
アラムが短く言い、周囲で様子を見ていたほかの契約者たちも一息ついた。彼が何かの操作をすると、半壊したドームが音もなく開いて巨大な部屋が現れた。アラムは迷いなくそこに機体を移動させ、ほかの面々も従った。微かな振動とともに、ゆっくりと床が沈下してゆく。巨大なエレベーターだ。
 上の開口部が小さな四角い窓と化したあたりでエレベーターは停止した。
四方にイコンが楽に通れるほどの通路が延びている。レイカ・スオウ(れいか・すおう)がアラムを放置したままルシアに言う。
「リファニーさんの気配を王都の地下に感じると言っていましたね。私も一緒に探しに行きます」
「うん、ありがとう」
意気込むレイカにパートナーのカガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)が注意を促す。
「都の地下に研究施設ってだけで相当な胡散臭さだ……。良いかレイカ……気負い過ぎるなよ。
 リファニーのことを気にかけてるのは分かるが……冷静になってこそ、見つかるものもある」
「……ええ、わかっています」
カガミは周囲を見回して尋ねた。
「……ねえ、アラム君、君は一体こんなところで何をしようとしてるの? なぜここに迷わずやってきたの?」
「僕は1万年前に、エンキによって地球人とパラミタ人を合成して造り出された……」
その場にいた全員が息をのむ。アラムは続ける。
「ニビル”の暴走を、自身の命を賭けても止めることが自分の使命だ。
 そのために必要なものが、ここにある。僕はそれを取りに来た」
あゆみが考え込みながら言う。
「あなたを生み出したエンキさんは、ゲルバッキー……ニビルさんのかつての仲間なのね。
 ゲルバッキーさんは本物のファーストクイーン様をとても慕っていたと聞いているわ。
 彼女の命を奪った”滅びを望むもの”への復讐で頭がいっぱいなのね……。
 でも…復讐で世界は救えないわ。いいえ、ゲルバッキーさん自身も救われないと思う」
モリーが頷く。
「そんな使命託されてたらしょうがないか。ピッキングや破壊工作が必要な事態にならないと良いんだけど。
 無事にたどり着けるよう、急ぎつつも慎重に行こう」
「ここにもインテグラルが潜んでいるかもしれません。禁猟区を作動させます」
「ここまで来た以上、無様な姿は見せられないからね」
クナイの言葉に北都が頷く。
レイカは半ばひとりごちた。
「地下にそんな重要なものが眠っているのなら、リファニーも必ず姿を現すはず。
 私は、遺跡探索の時、調査をする前から『いないだろう』と考えていた。自分の認識の甘さに腹が立ちます。
 なんとしてでも……彼女を連れ戻して、話を聞きたい。なぜシャクティ因子を奪い、インテグラルと共に……。
 熾天使が堕ちるかも知れないだなんて、そんなこと、認めはしません」
カガミはそんなレイカを見ながら、その場の全員にイナンナの加護をかけ、自らは殺気看破と見鬼を作動させ、不意打ちに備える。
(レイカにとって、熾天使という名の象徴がそれだけ重要なものなのか。
 そして……リファニーという1人の人間が、レイカの心に占める割合が大きくなりつつある、か)
モリーもすぐに獣人の罠師を呼び出した。
「さてと、危険がないか確認しながら進むよ。アラム君、どっちへ進むのかわかる?」
アラムは黙って北東へ延びる通路を指した。モリーはすぐに光学迷彩を使い、進行方向の調査に向おうとしたが、そこに8体のスポーンが反対側の通路から姿を現した。後方にはリファニーの姿がある。
「リファニー!」
ルシアとレイカが呼びかけたが、リファニーは何も言わずすぐに姿を消してしまった。北都がすぐに動いた。急速接近し、ソウルブレードでスポーンをなぎ払う。避け遅れた2体が黒い霧となる。避けたうち2体をさらにウィッチクラフトピストルで撃つ。毒炎を吹きかけるのを高速機動ですばやく避けた。アラムも残るスポーンを驚くほどのすばやい動きで切り伏せた。
「全部かな?」
レイカが尋ねる。
「上だッ!!!」
不意にカガミが叫んだ。小型の飛行型イレイザーが上の穴から落下してくる。真下にいた面々はすばやく避けた。ドーンという衝撃と共に、龍の体に昆虫のような羽根を持つイレイザーが床に降り立ち、すぐさま背中の触手を振り回し、イコンに搭乗していないメンバーを襲おうとする。北都がソウルブレードを構え、急所狙いですぐさまイレイザーの喉を狙う。剣先がかなり深くイレイザーの首を切り裂き、イレイザーがすさまじい咆哮を上げる。その口の中にめがけ、アラムが連続して弾丸を見舞った。イレイザーの咆哮が途切れ、爆炎が頭部を包み込んだ。
 と、そこへ高機動型シパーヒーが一機、石のように落下してきた。先ほどを上回るすさまじい衝撃と共に、イコンはその重みと衝撃でそこにいたイレイザーをゴキブリのように叩き潰した。イコンのコクピットが開き、ロイヤルガードマントに身を包んだ変熊 仮面(へんくま・かめん)が現れた。颯爽と飛び降りようとする。
「わーっはっはっ! とうっ!」
だが、衝撃で足がジンジンしていたため、まともにジャンプは無理だった。べちゃっ! という音と共に、変熊はイコンの下敷きになり、黒焦げになったイレイザーの頭の上に落下した。いつもどおりマントの下は全裸。イレイザーの頭部のトゲトゲが腹や足に刺さっているような気がする。死亡しているイレイザーの表情が嫌そうに歪んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「皆、大丈夫か!」
爽やかかつ、にこやかにその美しい顔だけを上げて微笑みかける。
「……アンタこそ?」
カガミのクールなつっこみを華麗にスルーしてマントをすっと纏うと、アラムの前につかつかと歩み寄る。
「ほほぅ……君がアラム君か。なるほど地味だ!
 ……実はここだけの話、ジェイダス様が君に大層な興味を抱いておってな。
 まあこの俺様がやってきたからには、大船に乗ったつもりでいてくれたまえっ」
「……」
全員が何も答えない。凍りついた空気をものともせず、変熊は相棒に呼びかけた。
「セキュリティがあるかもしれん……気を付けろ!」
イコンのコクピットから顔を出したのは、フワフワモフモフのかわいい子供の猫獣人にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)だ。変熊同様、こちらは薔薇学マントに赤マフラー、赤い羽根のマスクを身に付けている。マントの下はやはり常に全裸だが、こちらは見えてしまっても精神的ダメージは変熊と違い皆無である。
変熊はイコンをそのままに、通路を進もうとする。
「師匠〜、せっかくのイコン置いていくの? ……え、第三世代機じゃないと活躍はカット?
 大人の事情はめんどくさいにゃ〜」
「脱出用に置いていく、ということで万事解決なのだ」
「そうにゃのかー。先頭はボクたちに任せてくれたらいいのにゃ!!!」
にゃんくまはアラムの横にひょいとやってくると、小声で言った。
「アラム、ジェイダスに会う時は新しいパンツ履いてくにゃ」
にゃんくまはトラッパー、トレジャーセンスを駆使し地下研究施設を進んでゆく。なぜ進むべき道がわかるのかは当の本人にもわからない。
「あ、何か踏んだ」
軽身功で自分は軽やかに罠をよける。後ろについていたモリーに向かって、レーザービームが飛んできた。
「あぶなぁーぃっ!」
変熊が肉体の完成でそのビームを身を挺して受け止める。
「はうっ! ……にゃんくま君、わざわざ罠発動するのやめてもらえるかな?」
にゃんくまは何も聞いていない。次々と罠を作動させ、変熊が身を挺して避けるパターンで進んでゆく一行であった。