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リアクション
インテグラルクイーン1
ウゲンが立ち去ったころ、戦艦はルークの手前数キロの距離まで迫り、そこでいったん停止していた。王宮に入るためにはまずルークを何とかしなくてはならない。
「アレは半端な攻撃じゃあ通用しないだろ。やはりルークと同化してるクイーンの部分が弱点っぽく見えるが」
国頭 武尊(くにがみ・たける)が言った。彼は多くの契約者たちのように善意や危機から世界を救うためという大義名分は持たない。派手に活躍して功を立ててやろうという気持ちだけでこの作戦に参加していた。
「やっぱあの作戦で行くか」
国頭が猫井 又吉(ねこい・またきち)に声をかける。
「ん? アレか? 俺はいいぜ」
そばでルークを仔細に観察していた最新鋭のストークフラフナグズのコクピットでは、斎賀 昌毅(さいが・まさき)が腕組みをして考え込んでいた。
「前回ビショップと戦った時は翔と同時の覚醒溜め撃ちで、やっと傷がつけられただけだった。
こいつはそれ以上……なら、さらに出力と威力を上げるまでだ!!」
斎賀のパートナー、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)がため息をつきながらも最適化作業を進めている。
「全く毎度の事ながら昌毅はまた随分と無茶を言うものです。
まぁ、それに答えるのがボクの仕事なんですけどね……」
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は魔鎧形態のアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)を身にまとい、ルークの足元に近いビルの影から様子を伺っていた。
「あんな化物と戦わないなんて選択肢はねえよなぁ
弱点はアユナのスキルを用いて探し出すが……おそらく突き出た女の部分だろうというのが大方の予想だな。
なんでもあのクイーンとか言う女に何かしらの変化があったらしいが、知るか」
三者三様に、まったく思惑は違うが、同時にルークに向かって攻撃を開始した。斎賀のストークが一気に高空から落下するようにルークの真上に舞い降りる。
「覚醒ッ!!」
フラフナグズが閃光といっていいほどの光を放った。国頭はこのチャンスを隠れ蓑に、光学迷彩で姿を消し、超高速移動でルークに一飛びに接近した。使役のペンでルークに停止の命令を書き込み、同時にテレパシーで又吉に攻撃開始の合図を送る。同じく光学迷彩を使いルークの足元まで接近していた又吉が怪獣化する。ルークの半分程度のサイズになった又吉は、フェニックスアヴァターラ・ブレイドを腰だめに構えてルークめがけて突進する。
「化物風情がッ! なめんじゃねーぞォッ!!」
斎賀はリミッター解除からチャージに移行、巨大化したデュランダルの刀身にエナジーバーストを乗せる。不意にコクピットは異常事態を警告するアラーム音と、機器の限界を示す赤い光に包まれた。マイアが警告音に負けないよう、大声で叫ぶ。
「これだけ色々と無理やって威力を上げるんです!
エネルギー管理に手一杯で他に何も出来ませんからねっ! うるさいからアラームは切っちゃいます!」
静かになったコクピットは、未だ赤い警告の輝きに包まれたままだ。
「ここまでやったんだ、防御も回避もさせないぜ! 武器壊れてもたった一度振れればいいッ!!
……フラフナグズ……いきなリこんなんで悪いが耐えてくれよっ!」
「昌毅、ここまでやって外すのはなしですよっ!」
「これがっ! 地球とっ! パラミタとっ! ニルヴァーナのっ!! 三つの世界が創世した力だぁぁぁ!!」
叫びと共に全ての機晶エネルギーを注ぎ込んだ斬撃が、クイーンめがけて振り下ろされる。だが、音無 終(おとなし・しゅう)のストークリッターが突っ込んで来、その斬撃を逸らした。彼はクイーンを守るべく、銀 静(しろがね・しずか)の殺気看破で攻撃の気配を探っていたのである。静はウゲンを強く警戒していた。彼がクイーンにちょっかいを出すなら自爆覚悟でリッターを突っ込ませるつもりで待機していたのだ。
「うわっ!!」
剣戟はクイーンのすぐわき、ビームを打ち出す頭部に命中した。だが、強力なはずの攻撃でも、軽く剣先が突き刺さっただけだった。覚醒したストークへの体当たりによって、大きくバランスを崩した音無のリッターを、クイーンが両手で抱きとめる。
刺されたルークの頭部がうめくような声を上げたが、すぐにマイアが悲鳴を上げた。
「昌毅! 速攻で撤退します! 機晶エネルギーが猛烈な勢いで低下している! 今のままでは墜落します!」
フラフナグズはぎりぎり残ったエネルギーを使い、ルークから必死に遠ざかる。
ルークの体に駆け上がり、百戦錬磨の経験と勘で死角を探していた白津はイヴィルアイで同時に弱点を探ってみた。だが、いずれも何の反応もない。微弱に『可能性』としてはじき出されたのは、クイーンとルークの融合部だった。だが、そこにいたるまでには多彩な攻撃手段を持ついくつもの頭部を超えてゆかねばならない。当初クイーン部分はあとにとっておいて、ルーク実力を楽しませてもらおう位に思っていた白津だが、百戦錬磨である彼にはわかった。この生物が、彼の思惑をはるかに超えた力を持つモノだと。
「くそっ! 奥の手にとっておいたんだが……」
さしたる効果はないかもしれないが、ホワイトアウトでの凍結に、その身を蝕む妄執に行動阻害をダブルで使用し、ウェポンマスタリーを乗せて強化されたヴァンダリズムで真上の頭部に斬撃を加える。
「その無駄なお飾りみてぇな化物パーツを分解してやるっ!」
白津と別位置に取り付いていた斎賀は、やはりペンの効果はあまりないようだと舌打ちした。真上にある頭部が、ぎろりと目を寄せて彼を見る。口ががっと開いた。奥の手の零銃でその頭部を狙い打つ。目玉と口は凍結した。これでいい。少しでも動きを止められれば、死角から又吉が致命的な一撃を叩きこんでくれるに違いない。
「キャスリングはさせないぜ。これで詰みだ」
巨大化した又吉がルークに突進する。フェニックスアヴァターラ・ブレイドもろとも体当たりでの捨て身の攻撃だ。
「おらぁああああ! これでテメーの臓腑を抉ってやるぜぇええ!!」
だが、凍ったと見た頭部はすぐに動き始めていた。
「な、何っ!?」
長いムチのような舌が伸び、ルークは斎賀もろとも又吉をもあっけなく優に百メートルは吹っ飛ばした。
攻撃は白津にも及んでいた。とっさに常闇の帳で衝撃を緩和したものの、彼もまた国頭同様、吹っ飛んだ又吉のふかふかした胴体に叩きつけられた。巨大化した又吉はいくつもの建物をなぎ倒しながら吹っ飛び、かなり先のビルを半壊して仰向けに転がった。彼はすさまじい衝撃で完全に伸びてしまっていた。
一方、クイーンはリッターを身をかがめてルークから遠い位置に押しやった。
「クイーン……やはり君は……?」
音無が呟く。静は傷んだ機体を操作して、戦艦に近い位置へと移動させた。ルークの迎撃部隊と話をつけようというのだ。戦艦の周囲でルークへの攻撃準備にかかっているイコン群と戦艦にむけて、通信チャネルを開く。
「俺はインテグラルとしてのクイーンを否定して、その先の成長はないと思っている。
彼女は成長している。今のインテグラルとして以外のあり方を考え始めたている。
俺はクイーンががこれから進む未来を見たい。その為なら命をかけるつもりだ」
クイーンの変化には、皆が気づいているはず。音無はそこに賭けてみたのだ。
(入れ込み過ぎかも知れないが……俺は間近で成長する彼女と共に過ごしてきた。
彼女との間には、『絆』のようなものが確かに生まれている。さきの彼女がとった行動が、それを物語っている。
俺にとってクイーンは……命を賭してもいい……それくらい大切な人なんだ)
静がぼそっと言った。
「クイーンには名前が必要だよ」
フィサリス・アルケケンジ(ふぃさりす・あるけけんじ)のブルースロート、リュミエールから音無に通信が入った。
「ルークとクイーンを切り離したいって言ってた人が、他にもいるよ。話したいって言う人たちも」
「……そうか」
「ただ……今のままでは接近すら難しいね」
「ルークとクイーンは同一ではない。ルークの気を逸らせれば、あるいは……」
音無の情報が他の契約者たちにも伝えられた。
「ってことは……ルークの方だけに攻撃すればいいのかなぁ?
銃剣付きビームアサルトライフルで敵に威嚇射撃をして、こちらに注意を惹きつけてみるね!」
拾志祀 惹鐘(じゅうしまつ・ひきがね)がフィサリスの意図を汲んで早速情報の収集を開始する。
「確か教習で習ったのは機器だけに頼らず、目視でも確認せえってことや。
せやからボクは目視の確認も併せて情報を伝えるよ。仲間を撃ち抜いちゃったら大変やしね」
麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)の流星からも力強い通信が入った。
「さっきチラッと、香菜さんもインテグラル・クイーンと話をしたいって言ってたと聞いた。
だが……確かにそうすんなり近寄らせてくれる訳もない。まずはルーク部分を叩いて気を逸らすんだな?
ちょっと放置してたせいで埃かぶってたけど……オレも鬼鎧『流星』に搭乗して、威力を試させてもらうぜ!」
サブパイロットの和泉 暮流(いずみ・くれる)が言う。
「ライバルとしては、由紀也の射撃能力がどのくらいのものか……その実力見ておかねばならないでしょう。
攻撃系統は全て貴方に任せます。移動は私が引き受けますので任せてください。
攻撃等でイレギュラーな移動の指示があれば言って下さい」
「ああ、頼むぜ。方針としては、インテグラル・クイーン自身に影響が出ない程度に攻撃。
下から順に撃ちこんでいって、ルークの部分に少しでもダメージが与えられればよしとする!」
「解りました」
源 鉄心(みなもと・てっしん)はティー・ティー(てぃー・てぃー)を伴い、何かあればすぐに動ける位置に移動を開始し、その旨を全員に伝えていた。先ほどのルークの出方を見る攻撃の際、大天使による攻撃だけがルークをよろめかせたことに気づいていたので、緊急の際抑え込みができるやもと思ったのだ。源自身はクイーンに対して敵という感情はなかった。
「個としての生き方に気づいたのなら……創造主のエゴに従って生きるのではなく、自らの選択をして欲しい。
ファーストクイーンにしてもそうだが、誰かの道具のように扱われるのを見るのは辛い」
ティーも痛ましげにクイーンを見た。
「大義のために誰かを犠牲にしたり、重責を押し付けてしまうのはもう嫌です。
ファーストクイーンの時みたいにならなくても良いように、少なくともクイーンとの敵対関係を解消できれば……」
二人の思いは同じだった。
ルークへのけん制攻撃が始まった。麻篭がホークアイで照準をつけ羅刹大筒でインテグラル・ルークの足元を射撃する。和泉は機体をいつでも急上昇させられるよう神経を配りながら、小刻みに旋回や上昇下降を繰り返し、軌道が読みづらいよう工夫しながら流星を駆る。その合間に麻篭が次々と砲撃する。フィサリスは源、麻篭が動きやすいように中距離からアサルトライフルでルークの下半身近くの多数突き出た頭部などを狙う。フィサリスは万一の際は全エネルギーを投入してビームシールドを張り、生身の源らを庇うつもりでもいた。その意図を汲んで拾志祀は常に源、ティー組の位置のモニタリングを続けている。
「フィサリスがどこまで出来るか判らないけれど……皆頑張ってるし、できるところまで頑張るよっ!
守りきるまで頑張って、リュミエール!」
「フィサリスちゃんも頑張ってるし、ボクも負けてられんわ」
今回のミッションは倒すことではなくルークの意識をクイーンから引き離すことが目的だ。うまくすればルークの意識が戦艦から逸れ、その隙に王宮への突入も可能かもしれない。メルヴィアは戦艦をいつでも突入、あるいは回避が可能なように手配した。対ルーク部隊が戦艦の護衛部隊を残して飛び立ってゆき、フィサリスや麻篭機とともに激しい攻撃を開始する。ダメージはないものの、いくつもある顔や足元への猛攻撃はルークを相当うるさがらせた。触手や舌、ビームによる攻撃も、仔細にルークの前駆動作をモニタリングしている支援部隊がいち早く読み取り、的確な退避行動を指示している。双方にダメージはない。いわばこう着状態に陥った。