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リアクション
インテグラルクイーン2
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は修理中のオクスペタルム号の代わりに、鉄道工事用アンズーと、所有する傭兵団を共にノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の元に派遣していた。前回のこともあり、陽太は傭兵たちにノーンの指示に従い、敵と戦うことなどのほかに、危険を感じたら逃げるようにと伝えることも忘れてはいなかった。伝令官が畏まってノーンに陽太からの伝言を伝える。
「陽太さまからのお言伝をお伝えします。『みんなの為に頑張るノーンは俺の誇りです。でも、無理はしないで。
必ず無事にパラミタに戻ってきてください』との事です!」
「ありがとう、伝令さん。……そしてお兄ちゃん」
傭兵達の援護の元、アンズーは膠着状態のルークの正面に移動する。ノーンはコクピットを開き、単身飛行してクイーンの正面に静止した。ルークのけん制部隊からどよめきが上がり、ルークへの攻撃が派手になる。澄んだ歌声が爆音を制して響き渡った。ノーンはディーヴァとしての全身全霊の力をこめ、ルークを静止させようとしているのだ。
(もし、クイーンさんに歌を聞く『心』があるのなら……トモダチになれる日が来るかも?)
そんな希望を抱きながら。クイーンの双眸から赤い光が薄れ、ノーンのほうを向いた。明らかに歌に聞き入っている。
「よし、今だッ!」
「はいッ!」
源、ティーがセラフィックフォースを使い、光の大天使を召還した。全ての力を使い、ルークの抑え込みにかかる。同時にメルヴィアが戦艦に王宮突入の命令を下した。静止していた戦艦は、高速でルークの頭上を抜け、王宮に入った。
「何が正しく、何が間違っているのか…決められるのは自分だけだ。
そうでなければ、その選択にどこまで身も心も委ねることが出来る?」
ノーンの歌声にかぶせるように、大天使を通じて源が呼びかけると、クイーンの双眸がまっすぐに天使の顔のほうを向いた。
「ジブンで……選択……スル……」
音無がさらにクイーンに語りかける。
「俺は君がとても大切だ。君はどうだ? クイーン。
手を取ろう、そう思ってくれるのなら俺はそれに全力で応える!」
神崎 優(かんざき・ゆう)のプラヴァー蒼月も、クイーンの前で静止した。
「貴女は何故そこにいる? 貴女は他の者とは違っていた。絆を、感情を知りたいと想っていた。
与えられた命令だけではなく、自分の意志で行動しようとしていた。
なら何故、それを放棄して簡単な方へ逃げようとする?
知りたいと、理解したいと芽生えた感情を手放してはダメだ!
その想いは誰の物でもない。貴女だけの物だ!」
クイーンが考え込むそぶりを見せると、ルークは全ての活動をとめた。
「ワタシの……感情? 意思……知りタイ……人間……」
神崎 零(かんざき・れい)が優しく声をかける。
「確かに私達は今まで何度も間違ってきた。取り返しの付かない事もやってきた。
でも私達はそれでも前に進んできたの! 過ちを繰り返さない為に、悲しい思いをしない為に。
それを破壊したらやり直す事が出来なくなってしまう! また同じ事を繰り返してしまう!」
「過ち……破壊……過チ……ワタシは……ワタシはこの目で見タイ……知りタイ……」
「俺は貴女の言葉を聴きたい!与えられた命令じゃなく、貴女自身に芽生えている想いを教えて欲しい!
貴女と絆を繋げたい。共に未来を切り開こう!破壊じゃなく新しい未来を作り出す為に!」
「未来……ソウ、ワタシは違ウ……破壊は……違ウ」
香菜がキロスに守られながら、蒼月の両手に乗り、クイーンに声をかけた。早川呼雪が香菜にクイーンと直接接触することで変化があるかもしれないと持ちかけたのだ。香菜の思いも複雑ではあった。いわばクイーンは香菜のコピーでもあり、インテグラル・クイーンとしての個でもある。二人は、ある意味双子のような存在でもあるのだ。
「さすがに一時一緒になったから解ってることだけど……アンタが根っから悪ってわけじゃないのは解ってる。
何も……知らなかっただけだしね。でも、アンタは今までと違い、従うだけではなく、知ろうとし始めたわ。
もっともっと、感情や、感覚や、人や……いろいろ知ればもっとよりよい生き方ができるんじゃないかな?
私はそう思うよ。善とか悪とか、単純な区切りじゃないんだよ。
みんなより良い世界を、生き方を求めてもがいてるんだよ。アンタはそれを知ってしまった。
自分に課せられただけの、何も考えないで滅びに進むこと、それだけじゃないってことを」
香菜のほうにクイーンの手が伸びる。巨大な指先に香菜が触れると、火花でも散ったかのようにクイーンは手を引っ込め、その両手を禍々しい光の消えた目で見つめている。
「私は……お前の意識をモラッタ。あれから何か変ワッタのダ。
ただ……滅びるためだけニ生きる存在……ソレ以外に何かアルと思ウようになった……。
私は……もっと……お前タチのことを知りタイ。私の……生きる道……滅び以外ノ道ガ……あるように思ウ」
ルークをクイーンが抑え込んだようだった。ルークの体部分の頭はすべてが目を閉じ、活動を停止している。
「その化け物との融合は、お前の意思ではないんだな?」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がゴスホークゴスホークの外部スピーカーを通じてクイーンに話しかけた。
「違ウ……私はこれを望んでイナイ……」
「わかった!」
真司は源と打ち合わせてあったクイーンとルークの切り離しにかかる。万一のルーク覚醒に備えて即座に行動がとりやすいよう、BMI――ブレイン・マシン・インターフェイスを起動し、機体とのシンクロ率を上げている。ディメンションサイトでの空間把握と行動予測も作動させ、万全の体制だ。ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)はサブパイロット席でシンクロ率、ゴスホークのコンディションを仔細にモニタリングしている。
「現在のシンクロ率、85%です」
「切り札を切らせて貰う! 覚醒ッ!」
「了解です」
機体が機晶エネルギーの輝きをまとった。普段の何倍ものパワーを持ったファイナルイコンソードをクイーンの埋まった周辺に叩き込む。
「私ハここから抜け出せル?」
クイーンが言ったその刹那。どこからともなくぞっとするような気配があたりを包み込んだ。
『スベテヲハカイセヨ』
それは言葉ではなかった。何かの意思だった。そこにいた誰もが全て、畏怖を抱いた。そしてすぐにすさまじいエネルギーの波がインテグラル・ルークめがけて押し寄せて来た。
「キケンです!! 下がって!!!」
沈黙していたルークの目が一斉にカッと見開かれた。その場にいた全員が一斉に撤退、退避する。ルークに最接近していたゴスホークは左腕のビームシールドとG.C.Sによる空間歪曲場を展開して防御しながら、ポイントシフトによる瞬間移動で一気に退避し、ルークのビーム攻撃を辛くも逃れた。
「タスケ……て……イヤ……」
微かに呻くような泣き声のような声と共に、クイーンが縮んだ。かすかに身をよじるクイーンは、ルークの中にずるずると引きずり込まれてゆく。ビームを撃ち、ムチのように触手を振り回すルーク。だが、その動きが突然鈍り、ルークの複数ある口からクイーンの声が発せられた。
「逃ゲテ……少しナラ……抑えがキク……」
「ダメだ! まだ王宮突入部隊が戻ってきていない! 今撤退することはできない!」
王宮へ突入した部隊を下ろし、後退してきていた戦艦からメルヴィアが叫んだ。
「私の力デハ……ルークの制御ハこの程度ガ精一杯ダ……攻撃を続けてクレ……意識を逸らせばヤリヤスイ……」
ルークはその場から動けないようだった。周囲の届く限りのもの――廃墟化した建造物――を八つ当たり的に破壊してはいるが、遠距離攻撃を使う頭部は押さえ込まれているのか、目がひどい眠気と闘う人のように痙攣しながら閉じている。
「短い時間ダケなら……もう少し抑えられル。逃げるものが……通るトキ合図ヲ」
「わかった! ありがとう、インテグラル・クイーン!」
メルヴィアがクイーンに叫び返す。
「我々はこれより突入部隊が撤退するまでの間、ルークの注意をひきつける攻撃を続行する!
総員配置につけ! 休憩と出撃を交互に行い、無駄な消耗を避けろ!」
全部隊にメルヴィアの命令が下された。