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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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地下研究所へ向かえ2

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はアラムはここに『ギフトを取りに来た』といっていたのを耳にしていたが、ここが研究所であるなら、あるいはほかに何かの手がかりがあるのではないかと考えていた。少し遅れて彼らについて歩いていたが差ゆみはふと歩みを止め、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)を振り返った。
「アラムさんは、目的地へまっすぐ進んでいるみたいね」
「そうですわね」
「私は、ここにはほかにも何か手がかりみたいなものがあるんじゃないかと思うの」
「アラムさんたちはわき道にそれず進んでおられるようですし……」
「でしょう? だったらみすみすそれを逃す手はないと思うのよ」
「でしたら……アラムさんをを追いながら通路沿いの場所を捜索するのはいかがでしょう?
 調査目的ですし、大規模な戦闘対応の装備ではありません。
 すでに安全がある程度わかっている場所のほうがじっくりと調べることができると思いますわ」
さゆみは絶望的方向音痴なのである。それを熟知しているアデリーヌは未知の場所での二人での行動であるがゆえ、下手に不明のエリアに迷い込めば非常に危険であると判断したのである。
「……そうね、探索したところを改めて調べたら、意外な物が出てくるかも……?
 推理モノでもたいていそうよね。見落としていた手がかりを発見するのはすでにみなが捜索した場所だわ」
アラムたちの通ったルートは、ほかの通路と違い、進路上にカベの破片やら壊れた侵入者警戒装置、バラバラになったガードロボなどが散乱しているから、迷う心配もない。
「……派手に動かれているようですわね」
アデリーヌが感想を述べた。用意してきたトラップ解除の出番はなさそうである。二人は通路沿いにある施設を片端からチェックしてゆくことにした。

 アラムのイコンの後方で、フォレストドラゴンシヴァに騎乗する風馬 弾(ふうま・だん)は物思いにふけっていた。
(ルシアさんとリファニーさん、今なんだかとても難しいことになってて……。
 大切に思う同士が離れるのはとても辛いことだから、再会させてあげたいな。
 僕は家族が死んでて二度と会えないんだけど、ルシアさんたちはまだ会えるチャンスがあるのだから。
 大切な人と会えるのって、とってもすばらしいことなのだから。
 せめてひと時でも、二人を再会させられますように)
ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)はそんな弾に少し感傷的な思いを持ってシヴァに同乗していた。
(自分と、自分のご家族を、ルシアさんとリファニーさんに重ね合わせて、一生懸命になってる弾さん。
 弾さんは少し熱くなってるし、実戦経験も少ないわ。私は剣の花嫁としていくばくかの経験を積んできた。
 状況を冷静に見極めながら、アドバイスをしてあげなくてはね……)
シヴァも二人の物思いを感じ取っているのだろう、周囲に警戒はしながらも、その歩みは普段より静かで、ときおり後ろを振り返るようなしぐさを見せる。
「元気がないわけじゃあないのよ、大丈夫」
弾がやさしく首をたたくと、シヴァは小さく喉を鳴らした。
 シパーヒーイスナーンでアラム機の横を移動しながら、黒崎 天音(くろさき・あまね)もまた思索に耽っていた。
(必ずしも、オーソンの言っている事が、全て正いとは思っていないけれど……。
 全てが嘘ではないとも思っているよ。……一番の嘘は、多くの本当の中に紛れ込ませるものだ。
 それが嘘つきの手法だからね。……そう、僕同様に)
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は天音の顔をちらりと見やった。実直そのもののブルーズにとって、目的――自らの好奇心を満たすという――のためなら手段を選ばない天音の思考は追いがたかった。とはいえ、天音を苦々しく思っているわけではない。正反対の性格に振り回され、時に使われていながらも天音が大切でたまらないのだ。じっと天音を見つめていても得られる情報は今はない。彼はイコンの制御に集中することにした。
「第一世代機のシパーヒーとはいえ、ノービスのファーリスに遅れは取らんぞ。
 イコンでの戦闘が必要な場合は後方支援機として皆の支援を行わせて貰おう」
ディーヴァである天音の機体は『歌う巨人』の異名どおり、長距離射程のビーム兵器も持ち合わせてはいるが、天音のサポート能力を最大限に使うことをメインに調整されていた。
「後方に一体、ガードロボが行ったわ!」
ルシアの声が通信機からはじけた。またしてもにゃんくまがやらかしたのである。即座に天音が鼓舞の歌、戦慄の歌を詠う。歌で強化された弾らのシヴァがドラゴンクローを繰り出してロボットの背を切り裂く。切り裂かれながらロボットがビーム兵器の銃口をシヴァに向けるのがブルーズのモニターに映った。彼は通信機で弾に声をかけながら、すぐに絶対命中のスキルでビーム兵器をピンポイントにロボットの銃口にヒットさせた。シヴァはすばやく飛び下がり、直後エネルギーを内部に溜め込んでしまったロボットは爆発、四散した。
「無事でよかった」
天音がコクピットを開き笑いかける。
「ありがとう!」
「なに。お互い様だ」
ブルーズが豪放に言って、片手を挙げてみせる。ガードロボットを破壊して間もなく、通路は行き止まりになった。そこはちょっとしたホールのようになっていた。今まで通ってきたよりやや狭い通路が左右に伸びており、正面には見るからに厳重そうな扉がある。通路の脇には老朽化した簡易ベッドや家具がいくつか置かれた研究者たちの仮眠室のようなものと、予備の実験室か何かのようで、扉が開けっ放しのキャビネットやいくつかの機械類が置かれている部屋とがあった。アラムがイコンを止め、コクピットから降りる。
「ここ……この部屋だ」
ルシアもまたアラムのあとを追ってイコンから降りてくる。アラムが扉脇のボックスを操作すると、扉が開いた。中はかなり広い部屋だが、それまでの廊下と違いイコンが入れるサイズではない。そして扉は開いたものの、青いもやのような障壁がドアの開口部にかかっている。
「ここで皆は待っていてくれ」
「一人で入るって……危険じゃないか?」
魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)を装備した蔵部 食人(くらべ・はみと)が尋ねた。
「ここに入ることができるのは僕だけだ。認証システムが働いている。このもやのようなものがそうだ。
 入ろうとしても認証されていないものは、外に出されてしまう」
食人が潜り抜けてみようとしたが、くぐったと思うと、入り口に立っている自分に気づく。
「……そういうことか」
アラムは黙ってもやをくぐり、部屋に入った。わずか数分だったのだろうが、待っているものには恐ろしく長い時間に思われた。
「ここでの用は済んだ。戻ろうか」
アラムが何事もなかったように部屋から出てきた、そのときだ。ルシアが叫ぶ。
「リファニーっ!!!!!」
左の通路から銀色の翼を光らせ、小型のイレイザー2対を従えたリファニーが現れたのだ。相変わらず無表情で、その瞳に生気はない。
「手に入れたものを、渡しなさい」
普段とはまるで違う、平板で無感情な声がその口から漏れた。
「これは渡せない」
アラムが簡潔に、同じように平板な口調で答える。
「ならば、死ぬがよい」
リファニーが言うと同時に、アラムはもがくルシアをいとも簡単に抱き上げ、イコンに飛び乗った。コクピットの扉が閉まるかしまらないうちにリファニーの銀色の翼から光の弾が撃ち出され、今までアラムが立っていた場所の壁に弾けた。さすがに研究所の最奥部、相応の防御壁となっているようで、たいした傷はつかなかった。リファニーはアラムの機体に向かい再度光弾を放った。アラムの機体に光弾の数だけ傷が入る。リファニーがさっと片手を挙げると、二体のイレイザーがアラム機めがけて襲い掛かった。北都のルドュテがソウルブレードで激しく一体を切りつけ、繰り出される触手を次々切り落とす。炎を吹こうと持ち上げられた頭に、フォレストドラゴンのシヴァのドラゴンクローが猛烈な勢いで振り下ろされ、イレイザーの頭部が床にたたきつけられる。イスナーンのビーム砲がイレイザーの頭部を灼き、イレイザーは断末魔の苦痛に全身を激しくのたうたせる。もう一体はアラムのイコンのビームサーベルにに翻弄されていたが、毒炎を吹きつけようと開いた口からビームサーベルで後頭部まで突き通されて絶命した。
「イコンでフェンシングをしてるみたいだった」
その場にいた全員が同じ感想を持ったのだった。
手下のイレイザーを倒されたリファニーは、再び光弾を激しく放ち始めた。そこに食人が飛び出してゆく、
「リファニーさん、アンタをどんな手を使ってもここに足止めするっ!!
 ルシアさんにリファニーさんを助けるのを手伝うって約束したからなっ!」
食人は魔鎧とその上に巻きつけたマントで攻撃を何とかしのいでたが、突如手にしていた武器を全て放り投げ、リファニーの足元に土下座すると、顔を上げ、大声で叫ぶ。
「プールの時、その豊かな胸に顔を埋めてしまいスイマセンしたぁっ!」
その叫びにはしっかりとメンタルアサルトお効果が載せられている。
「リファニーさんの胸ときたらもう……マシュマロというかなんというか……天にも上る心地で……。
 ……いい匂いだったなぁ……うん……」
「ウルサイ」
リファニーは翼ですさまじい風を起こし、食人は吹っ飛ばされて反対側の壁に激突した。いつの間にか空飛ぶ箒ミランの隠れ身効果で食人から離脱していたシャインヴェイダーが、ヴィサルガでウルフアヴァターラのオリジナルを召還し、飛びつかせてリファニーを押さえ込んだ。
「ルシアちゃん! 今だ! 説得を!!」
「リファニー、帰ってきて! お願い! 元に戻って!!」
レイカも叫ぶ。
「熾天使が堕ちるなんてダメよっ! 考え直してっ!」
リファニーは苛立たしそうにウルフアヴァターラを押しのけて立ち上がった。翼を広げ、風を起こす。そこへ変熊が駆け寄り仁王立ちで叫ぶ。
「待ちたまえ!」
リファニーが起こした風でマントが全て後ろにたなびき、見たくないものがリファニーの眼前に全て晒される。
「イヤああああああああぁぁぁっ!!!」
、リファニーは悲鳴を上げて背を向けた。平板ではない。いつもの声だ。ルシアははっとリファニーを見つめた。こちらに背を向けているものの、耳まで真っ赤になっている。
「リファニー……貴女……?」
「お願い……何があっても……私を信じて……」
空耳かと思うほどの微かな、ごく微かな声だった。リファニーは背を向けたまま、猛スピードで通路の奥に姿を消した。
「はーっはっはっは。ピンチを救うのはこの変熊仮面様だ!」
いつもの仁王立ちのポーズでリファニーを見送る変熊。隣でにゃんくまが同じポーズをとっているが、誰も見ていない。いや、見たくない。
「アラム君、ここですることは全部……? 何を取りに来たの?」
シャインヴェイダーが尋ねた。
「複数の機晶石の力を大きく扱うための装置だよ。暴走することしかできないけれど――新手がこないうちに戻ろう」
アラムはそう言って、もと来た道をたどる。
 状況が落ち着いたのでさゆみは休憩室のキャビネットを調べ、ついでぼろぼろの寝具を探ってみた。小さな記録媒体が崩れた枕の脇に落ちちている。今まで調べてきた部屋にあったもので、持ち帰れそうな収穫物はそれだけだった。
「日記か何かかな?」
「放り出してあるところを見ると、そうかもしれませんわね」
「当時の記録には一応なるかもね。持ってかえりましょう」