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リアクション
結果として、迂回して右に進路を移したことは成功だった。
3体のインテグラル・ビショップからも距離を取ることができた。また一度も止まることなく戦艦は降下を続けている。ヘクトルの判断は正しかったという事になるのだろう。しかし―――
「土佐の火力で進路をこじ開ける!!」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が声をあげた。その指示をパートナーの高嶋 梓(たかしま・あずさ)が味方機に通信して伝える。
「射程に入り次第、撃てっ!!」
爆音を響かせて『艦載用大型荷電粒子砲』が発射された。戦艦の降下方向正面に群れるスポーンたちを次々に焼き払ってゆく。
「今です! 全艦、進軍!!」
梓の声が強く弾む。無論にスポーンの全てを灰にすることは叶わなかったが、それでも亮一の言葉の通り戦艦の進路をこじ開ける事には成功した。
「そうら、さっさと進まないと、また沸いてくるぜ」
閃電を土佐の底部へと回しながら岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)が言った。悪意があるわけでも嫌味を言うつもりも無かったが、結果、そう取られても仕方ない発言だったな……と言った後に思い、凹んだ。
「進行方向に敵機確認。数秒後には囲まれます」レーダーを前に山口 順子(やまぐち・じゅんこ)が応える。彼女の冷静な声色が伸宏を瞬時に落ち着けた。
「ま、どれだけ沸いてきても俺が片っ端から蹴散らしてやるがな」
「そうですか、俺が、ですか。そうですか」
「………………いや、違うか。俺たちが、だな」
「とんだロスです。囲まれてしまいますよ」
「おぉう。分かってるよ」
土佐の正面に回る。土佐だけは墜とされる訳にはいかない。土佐のイコンデッキには堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)と大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)が控えている。彼らは帰還した味方機の受け入れと修理、そして整備を行っているのだ。常に戦艦の傍に付いているだけに、補給艦としての役割は大きい。
帰還したイコンはすぐに損傷度合いを5段階で判別、担当のドックへ搬送される。スペースは限られている、ここで判断を誤れば時間のロスは計り知れない。それを担当しているのが大田川だ。
そして堀河は知識と経験を元に整備と調整を行っていた。
「こんな所で滅びるのは僕だってごめんです。でなければ、こんな風に物を直す事を仕事になんかしないでしょう?」
焦らず迷わず、的確に正確に。これまでも、もちろん今日この時だって彼は自分にそう言い聞かせながら整備を行ってきた。それはきっとこれからも変わることはない。
「……OKです! 再出撃願います!」
機体の準備は整った。パイロットの傷も空腹も癒してある。ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)の『ヒール』と天城 千歳(あまぎ・ちとせ)の差し入れ「サンドイッチ」。実際に戦うのは機甲兵でも、それを操るのはやはり人間。彼らの回復も忘れてはならない。
戦闘だけが戦いじゃない。喉が枯れ切れても歌い続ける。そんな覚悟で戦場を行く者がいる。最新機フロンティアに乗りながら赤城 花音(あかぎ・かのん)は歌を歌っていた。
機体の制御はリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)に任せている。花音はただただ願いを込めて歌い上げる。歌うはオリジナル曲『デウス・エクス・マキナ』だ。
『 運命の歯車が動き出す 織りなす鼓動のスピリット
蒼空を翔ける剣を手に 今 世界の創造に立ち向かう
迷い戸惑い悲しみ 暗闇に墜ちないで
自分の心に問い掛けて 答えの意味だけ闘いがある
命の音色……生きる輝き放つ剣
僕らは目覚めるフロンティアへ
さあ 戦火の悪夢を断ち切ろう 過ちを撃ち抜く覚悟を胸に
真っ直ぐな想い加速する 君の強さへ変わって行く
夜明けの眩しい光が導く 渡した涙が虹色に煌いて
終末に奇跡が舞い降りる 灯した勇気……明日を掴み取るんだ 』
花音の狙いは歌詞の通り。皆を鼓舞し、そしてサロゲイト・エイコーンの力を解放する事にある。
歌を自機とシンクロさせて届けることで、自機だけでなく味方機さえも『覚醒』させる事ができるのではないか。そう信じていたのだが……
「行くよっ!! 『覚醒』っ!!」
藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が叫ぶ! しかし琴音Revolution乙はウンともスンとも言わなかった。
「どーして『覚醒』しないの!? 」
「うーん、やっぱりダメだったかぁ」アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が軽声で言った。
「よーし、それなら初志貫徹だねっ! 歌うよー、私もばっちり歌っちゃうよー」
「ちょっ、待って。何も解決してないよ、あたし何も分かってないよっ?!」
知ったこっちゃない、とは言わないで。琴音Revolution乙は元々『覚醒』可能機体ではない、それでも花音の歌を聴かせる事で『覚醒』が出来てしまうのではと期待したのだが……残念ながら叶わなかったようだ。
それでも味方機を鼓舞する効果は期待できるので、アスカも「魔女っ子アイドル」として歌で援護する事を決めたというわけだ。
「あの短時間でこれだけの事を………………じゃないっ! 違うよ! 解決してないよ! 特別限定生産のレア機だって言うから貰ってあげたのに、『覚醒』できないってどういう事?!!」
「はいはーい☆ みんな頑張ってるー? 戦場のアイドル、乙琴音ロボの魔女っ子あすちゃんだよ☆」
「無視っ?!! あれっ?!! 無視なのっ?!!」
「戦争なんて下らないZE! 私の歌を聴けー!」
エリスの叫びは届かないままアスカの戦場ライブが始まった。
花音とアスカの歌声が戦場に響く、そんな中―――
「賑やかになってきましたね〜」
おっとりとした声でリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が笑み言った。『空飛ぶ箒スパロウ』にチョンと座る様が実に可愛らしい。
「戦場で歌が聴けるとは思いませんでした」
「そうだねっ!!」
パートナーのラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)はルンルン声で言って応える。
「インテグラルもイレイザーもイレイザー・スポーンも嫌い。でも嫌い嫌い嫌いばっかりだったから、元気出るよねっ! 楽しいねっ!!」
アップテンポの曲ばかりではないのだが、ラグエルにとってはアガる曲のようで。彼女がルーンと称する『聖詩篇』の結界もいつもより張りがあるように見えた。2人は戦艦に張り付こうとするイレイザー・スポーンを『火術』や『聖詩篇』で弾き飛ばしていた。
空洞の底はまだまだ見えない。それでいて敵の数も減っているようには思えなかった。
できるだけ魔力を温存しながら戦艦を守る。ボディーガードの家の子に生まれたリースにとっても、この任務は実に難易度の高いものだった。
「は〜い、近寄らないで下さ〜い」
口調や物腰こそ柔らかいが、攻撃は的確に。戦艦の護衛はまだまだまだまだ終わらないようだ。