空京

校長室

創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

リアクション

 しんしんと降る雪、その雪の塊の一つ一つがイレイザー・スポーンであるかのような。
 最深部を目指して降下を続ける戦艦、そのはるか上方でさえ、そんな状態だった。前線で戦う契約者たちにとってこの状況は―――
「ふぅ〜、厳しいね〜」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)がふと漏らした。『ディメンションサイト』や『行動予測』を常に発動していても、一瞬の隙で囲まれてしまう。アイオーンの機体制御を担当しているが、目線は常に留まることなく動き続けていた。
「そろそろですかね」
 パートナーのシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)が言った。こちらの視線はインテグラル・ビショップと戦うニケに向いている。パイロットの霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)もまたシフ同様、他機の援護に回っていた。そのニケが今まさにビショップの懐に飛び込もうとしていた。
「零距離で撃つって事?!!」
 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)沙霧に問う。沙霧の応えは「正解っ!!」だった。
 本来ならば遠距離からのサポートに徹したいが、今この時だけはどうしても確実に敵の目を引きつける必要があるのだ。
「これまで遠くから狙っていた機体が急接近してきたら……面白いでしょ?」
 それもこれも全てある希望のため。最高の状態で熾天使の力ビショップに向けるためだ。
「行くよ、クレア
「はい、お兄ちゃん」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の手を取る。よく知った温もりがクレアの気持ちを落ち着けた。そして『※セラフィックフォース』を発動する。
「私の中にある熾天使の力よ、我らに邪悪なる者を滅する光と力を与えよ」
 ヴァルキリーに秘められし熾天使の力、それを解放することで光の大天使を出現させることができる。それこそがインテグラル・ビショップに抗する彼らの切り札。
 狙うは一太刀。ビショップの懐に飛び込んで『熾天使の焔』で薙ぎ斬る。
 光の大天使が3対の翼を大きく広げた時だった。
「なっ!!」
 ニケが『大形ビームキャノン』を放っている最中、それまでさほど動じることなく砲撃を受けていたビショップが突然に首を振り、そして光の大天使をその目に捉えた。その直後、ビショップは空洞の入口部めがけて飛び出したのである。
 それはまるで逃げるようだった。事実、それを追う大天使を正面に見据え、後進する体勢で上昇を続けた。大天使と距離を取ろうとしている事は明らかだった。
「嫌な予感だったから、当たらなくて良かったのに」
 沙霧が悔しそうに呟いた。ビショップ3体が『覚醒』したイコンと対峙した際に連携したのを見た時から、そんな予感がしていた。ビショップが光の大天使に対しても何か策を講じてくるのではないかと。
「マズい!! 大天使の顕現時間は30秒しかないんだぞ!!」
「ここは私たちが!」
 涼介の叫びに応えたのは遠野 歌菜(とおの・かな)だった。
 『加速』でアンシャールを駆る。姿を隠してフォローに回る戦術をとっていたが、致し方ない。一気に上昇してビショップの前に回った。
「らしくない事は、しないでねっ!!」
 正面から『マジックカノン』を発射した。ビショップはこれを『焔の剣』を振って防ぐ。現れた炎の壁が着弾を阻み、爆ぜさせたのだ。それでもビショップの足はここで止まった。
「今よ!!」
 ビショップの後方、少し距離はあるが時間がない。光の大天使は『熾天使の焔』を投げ放った。
「キシャアアアア!!!」
 ビショップの左背面、腕の付け根に『熾天使の焔』が突き刺さる。同時に剣から業火が溢れ、一瞬にしてビショップの左腕部が炎に包まれた。
クレア!!」
 30秒の時間切れ。大天使が消滅すると同時にクレアが力なく崩れた。そんな彼女を涼介が抱き支え、シフアイオーンがまとめて保護をした。ビショップはすぐに炎を払い、そして再び彼女らに視線を向けている。このまま留まれば間違いなく殺されてしまう。
「そんな事させるわけないでしょ!!」
 再びアンシャールが立ちはだかる。今度は『暁と宵の双槍』も構えているが―――
「ここはまず、こっちだろ」
 冷静な声で月崎 羽純(つきざき・はすみ)が言う。そして躊躇いなく『増設スモークディスチャージャー』を用いて、辺りに煙を発生させた。
「追跡を防いで、こちらも身を隠す。一石二鳥、原点回帰」
「おぉ……さすが羽純くん」
「俺が居て良かっただろ?」
 ちょっぴり鬱陶しかったので歌菜は無視した。だが確かにその戦術は的確だった。ビショップが強引に突破しようものなら『行動阻害』を試みればよい。
 『覚醒』も『熾天使の力』も時間制限がある。第三世代機のチャージショットに至っては溜める時間と連発が出来ない点がネックだ。
 インテグラル・ビショップは巨大な体と強靱な装甲を有している。熾天使の力はそんな奴らに対抗し得る数少ない手段の内の一つだったが、残念なことに、これも不発に終わってしまった。


 さて、焔の剣を持つビショップ光の大天使に気付いて退避を始めたとき、実は1体の槍持ちのビショップもまたこれに気付いて飛び出していた。
 フォローに行こうとしたのだろうが、しかしそれは叶わなかった。なぜなら―――
「真剣勝負の最中にどこへ行くつもりだ?」
 グレート・ドラゴハーティオンが「グレート勇心剣」を振り下ろして斬りかかったからである。
「余所見をする余裕など……与えたつもりはないぞっ!!」
 パイロットはドラゴ・ハーティオンコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と魔鎧である龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が龍心合体した姿である。搭乗するにあたりドラゴランダーは20m近い巨体のために、グレート・ドラゴハーティオンの外胸部付近に顔部を表す形で盾の役割も担うよう乗り込んでいた。
 ビショップの槍を封じるように連続で剣を打ち続ける。一度詰めた間合いから逃れられるのは避けたかったし、槍自体が伸び縮みすることだって考えられる。戦いが長引けば自分はもちろん、仲間たちをも危険に晒すことになるだろう。
「オオオン!!」
 ドラゴランダーは人間の言葉を話せない。それでもハーティオンはそれを聞き解く事ができる。
『槍にひるまずに突っ込め! 我が牙で受け止める!!』
「しかしそれは余りに―――」
『迷うなハーティオン! 貴様が守るのは我ではなく、蒼空学園の小僧どもだろう!!』
「くっ……」
 ハーティオンが躊躇している間にドラゴランダーは言葉の通りにビショップの槍に噛みついて牙で抑えこんだ。
『今だ!!』
「ぉ……ぉおおおおおおお!!!」
 一閃! 「彗星・一刀両断斬り」を放ち、ビショップの顔面を裂いた。と言っても深さにして10cm程度にしか装甲を斬り抉る事は出来なかったのだが、それでもその衝撃がビショップの頭を揺らし、巨体の動きを止めていた。
『そうだ! その調子だ!!』
 いくら装甲が厚く頑強でも何度だって斬りつける。ドラゴランダーの牙が砕け折れる前に。
 今の力では決定打を放つことは難しいだろう。しかしそれでもそうだとしても、ハーティオンは覚悟を決めてビショップに挑み続けた。ドラゴランダーが、そして仲間たちもまた誰一人諦めることなく戦っているのだから。